【2025年版】相続登記義務化の注意点と罰則

この記事の結論
相続登記は2024年4月から義務化され、相続開始を知った日から3年以内の登記が必要です。違反すると10万円以下の過料が科されます。施行後半年が経過した2025年10月時点では、実務での対応事例が出始めています。
この記事では、不動産鑑定士の視点から、施行後の実務動向、罰則のリスク、具体的な手続きの流れと費用を解説します。
1. 相続登記義務化とは【2024年4月施行の背景】
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。この制度は、所有者不明土地の増加という深刻な社会問題を解決するために導入されました。
1-1. なぜ義務化されたのか(所有者不明土地問題)
日本全国で所有者不明の土地が増加し、国土の約22%を占めるという深刻な問題がありました。具体的には、約410万ヘクタール(九州全土に相当)の土地が所有者不明となっており、公共事業の妨げや防災上のリスク、治安の悪化などの問題が発生していました。
この背景には、相続が発生しても登記がされないまま放置されるケースが多く、時間の経過とともに相続人が増加し、権利関係が複雑化するという悪循環がありました。国土交通省の調査では、所有者不明土地の約66%が相続未登記に起因するものでした。
こうした状況を改善するため、政府は2021年4月に民法・不動産登記法を改正し、相続登記の義務化を決定しました。
1-2. 義務化の内容(3年以内の登記義務)
相続登記の義務化により、以下の義務が課されました。
相続登記の期限
- 不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要
- 遺産分割が成立した場合は、その日から3年以内に登記申請が必要
対象となる不動産
- 施行日(2024年4月1日)以降に発生した相続
- 施行日前に発生した相続も対象(経過措置あり)
- 土地・建物いずれも対象
経過措置の詳細
施行日前に相続が発生していた場合、以下のいずれか遅い日までに登記が必要です。
- 施行日(2024年4月1日)から3年以内(2027年3月31日まで)
- 相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内
1-3. 罰則(10万円以下の過料)
正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料(かりょう)が科される可能性があります。ただし、以下のような「正当な理由」がある場合には、過料は科されません。
正当な理由として認められるケース
- 相続人が極めて多数で、必要な資料の収集に時間がかかる
- 遺言の有効性や遺産の範囲などが争われている
- 相続人自身が重病など
- DV被害者など特殊な事情がある
法務省は、単純に期限が過ぎただけで機械的に過料を科すのではなく、個別の事情を勘案して判断するとしています。
2. 施行後半年の実務動向【2025年10月時点】
施行から半年が経過した2025年10月時点で、相続登記の実務にどのような変化が見られているのでしょうか。
2-1. 登記件数の変化(施行前と施行後の比較)
法務省の統計によると、2024年4月以降、相続登記の申請件数は前年同期比で約30-40%増加しています。特に施行直前の2024年3月には駆け込み申請が急増し、法務局の窓口は混雑が続きました。
主な傾向
- 都市部(東京、大阪、名古屋など)での増加が顕著
- 司法書士への依頼件数が約25%増加
- オンライン申請の利用率が上昇(全体の約15%)
不動産鑑定士として実務で感じるのは、相続が発生してから早期に相談に来られる方が確実に増えているということです。以前は「そのうちやろう」と先延ばしにされる方が多かったのですが、義務化により危機感を持たれる方が増えています。
2-2. 未対応者の状況(推定される未対応件数)
一方で、依然として未対応のケースも多く残っています。法務省は、施行前の未登記相続不動産を約500万件と推定しています。経過措置により2027年3月31日までに登記が必要ですが、現在のペースでは対応が間に合わない可能性があります。
未対応になりやすいケース
- 遠方の不動産を相続した場合(実家が地方にあるなど)
- 相続人間で意見が合わず、遺産分割協議が進まない
- 相続不動産の評価額が低く、費用対効果を感じられない
- 高齢の相続人で手続きが負担
2-3. 実際に罰則が適用されたケースはあるか
2025年10月時点では、相続登記義務化の罰則(10万円以下の過料)が実際に適用された事例は公表されていません。法務省は、施行直後は啓発・指導を優先し、悪質なケースにのみ過料を適用する方針としています。
ただし、法務局からの催告(登記を促す通知)は既に始まっています。未登記の不動産がある場合、法務局から「相続登記をお願いします」という旨の通知が郵送で届くケースが報告されています。
今後、期限が近づくにつれて、より厳格な運用になる可能性があるため、早めの対応が推奨されます。
3. 相続登記の手続きの流れ【ステップバイステップ】
実際に相続登記を行う際の具体的な流れを解説します。
3-1. Step1: 相続人の確定(戸籍調査)
まず、誰が相続人なのかを確定します。被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、相続人を特定します。
必要な戸籍の種類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍を含む)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
戸籍の取得には、本籍地の市区町村役場への請求が必要です。遠方の場合は郵送請求も可能ですが、時間がかかるため、早めに着手することが重要です。
3-2. Step2: 遺産分割協議(または遺言書の確認)
相続人が確定したら、誰がどの財産を相続するかを決定します。遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容に従います。遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議のポイント
- 相続人全員の合意が必要
- 合意内容を遺産分割協議書にまとめる
- 相続人全員の署名・実印による押印が必要
- 印鑑証明書を添付
不動産の分割方法には、以下の選択肢があります。
- 現物分割:不動産を現物のまま取得者を決める
- 代償分割:不動産を取得した相続人が他の相続人に金銭を支払う
- 換価分割:不動産を売却して現金を分ける
- 共有:複数の相続人で共有する(後のトラブルリスクあり)
3-3. Step3: 必要書類の収集
登記申請に必要な書類を収集します。
主な必要書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人の住民票
- 遺産分割協議書(または遺言書)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 不動産の登記事項証明書
書類の有効期限はありませんが、最新のものを用意することが推奨されます。
3-4. Step4: 登記申請書の作成
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成します。登記申請書には、以下の内容を記載します。
登記申請書の記載事項
- 登記の目的(所有権移転)
- 登記の原因(相続、日付)
- 相続人の氏名・住所
- 添付書類の種類
- 登録免許税額
- 不動産の表示(所在、地番、地積など)
法務局のウェブサイトで書式のひな形をダウンロードできます。
3-5. Step5: 法務局への申請
登記申請書と添付書類を、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
申請方法
- 窓口申請:法務局に直接持参
- 郵送申請:書留郵便で送付
- オンライン申請:法務局の登記・供託オンライン申請システムを利用
窓口申請の場合、その場で書類の不備を確認してもらえるメリットがあります。オンライン申請は24時間受付可能で、登録免許税が若干減額されます。
3-6. 所要期間と費用
所要期間
- 戸籍収集:1-2ヶ月
- 遺産分割協議:1-3ヶ月(相続人の状況による)
- 登記申請から完了まで:1-2週間
全体で3-6ヶ月程度が目安です。相続人が多い場合や遠方にいる場合は、さらに時間がかかることがあります。
費用の概算
- 戸籍謄本等の取得費用:5,000-15,000円
- 登録免許税:不動産評価額×0.4%
- 司法書士報酬(依頼する場合):50,000-100,000円
4. 必要書類と費用【詳細リスト】
相続登記に必要な書類と費用について、詳しく解説します。
4-1. 必要書類一覧
被相続人に関する書類
- 出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 住民票の除票(または戸籍の附票)
相続人に関する書類
- 全員の現在の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印した実印のもの)
不動産に関する書類
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産評価証明書(または固定資産税納税通知書)
遺産分割に関する書類
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
- または遺言書(公正証書遺言または検認済みの自筆証書遺言)
4-2. 登録免許税の計算方法(不動産評価額×0.4%)
登録免許税は、不動産の固定資産税評価額に0.4%(1,000分の4)を乗じて計算します。
計算例
- 土地の評価額:2,000万円
- 建物の評価額:1,000万円
- 合計:3,000万円
- 登録免許税:3,000万円×0.4%=120,000円
100円未満は切り捨てです。また、免税措置により、相続により取得した土地のうち、評価額が10万円以下のものは非課税となります(2025年3月31日までの特例、延長の可能性あり)。
4-3. 司法書士報酬の相場(5-10万円)
自分で登記申請を行うことも可能ですが、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士報酬の相場
- 基本報酬:50,000-80,000円
- 戸籍収集代行:10,000-30,000円
- 遺産分割協議書作成:20,000-50,000円
不動産の数や相続人の数、案件の複雑さによって費用は変動します。複数の司法書士に見積もりを依頼し、比較検討することをおすすめします。
4-4. 費用を抑える方法(自分で申請する場合)
費用を抑えたい場合は、自分で登記申請を行うことも可能です。
自分で申請するメリット
- 司法書士報酬(5-10万円)を節約できる
- 手続きを理解できる
自分で申請するデメリット
- 時間と手間がかかる
- 書類に不備があると補正が必要
- 法的なリスクがある
法務局では、登記相談窓口(予約制)で無料相談ができます。また、法務局のウェブサイトには詳細なマニュアルが公開されています。
比較的シンプルなケース(相続人が少ない、不動産が1-2件、遺言書がある)であれば、自分で申請することも十分可能です。
5. 登記を放置するリスク【罰則だけではない】
相続登記を放置すると、罰則以外にも様々なリスクがあります。
5-1. 10万円以下の過料(かりょう)(実際に適用されるケース)
正当な理由なく3年の期限内に登記を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。現時点では適用例はありませんが、今後厳格化される可能性があります。
過料が科される可能性が高いケース
- 法務局からの催告を無視し続ける
- 正当な理由がなく長期間放置する
- 悪意を持って登記を回避している
過料は刑罰ではありませんが、金銭的負担となります。
5-2. 不動産売却への影響(登記なしでは売却不可)
相続登記をしていない不動産は、そのままでは売却できません。売却するためには、まず相続登記を行い、名義を相続人に変更する必要があります。
急いで売却したい場合でも、相続登記には1-2ヶ月程度かかるため、売却のタイミングを逃す可能性があります。特に不動産市況が良い時期に売却を逃すと、数百万円単位で損失が出ることもあります。
5-3. 相続税申告との関連(登記がないと評価額が確定しない)
相続税申告(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)の際には、不動産の評価額を確定する必要があります。相続登記自体は相続税申告の要件ではありませんが、登記がないと権利関係が不明確なため、税理士や不動産鑑定士が評価を行う際に支障が出る場合があります。
また、小規模宅地等の特例などの税制優遇措置を適用する際にも、登記情報が必要になる場合があります。
5-4. 二次相続のリスク(相続人が死亡すると更に複雑化)
相続登記を放置したまま、相続人の1人が亡くなると、その相続人の権利がさらにその相続人(孫世代など)に引き継がれます。これを「二次相続」といいます。
二次相続の問題点
- 相続人の数が増え、遺産分割協議が困難になる
- 面識のない相続人同士で協議が必要になる
- 権利関係が複雑化し、登記費用が増加する
実際に、3世代にわたって相続登記が放置され、相続人が30人以上になってしまったケースもあります。こうなると、全員の合意を得ることは極めて困難です。
6. 自分でできるか、専門家に依頼すべきか【費用対効果】
相続登記を自分で行うか、司法書士に依頼するかは、多くの方が悩むポイントです。
6-1. 自分で申請する場合のメリット・デメリット
メリット
- 司法書士報酬(5-10万円)を節約できる
- 手続きの流れを理解できる
- 自分のペースで進められる
デメリット
- 時間と手間がかかる(戸籍収集、書類作成で数日〜数週間)
- 書類に不備があると補正が必要
- 法的リスクがある(記載ミスなど)
- 法務局への問い合わせや窓口訪問が必要
6-2. 司法書士に依頼する場合のメリット・デメリット
メリット
- 正確かつスピーディに手続きが完了する
- 書類収集から申請まで一括で任せられる
- 複雑なケースにも対応できる
- 法的リスクを回避できる
デメリット
- 報酬(5-10万円)が必要
- 司法書士の選定に時間がかかる
- コミュニケーションコストがある
6-3. 費用対効果の判断基準(不動産の評価額、相続人の数)
以下の基準で判断することをおすすめします。
自分で申請する方が良いケース
- 相続人が1-2人と少ない
- 不動産が1-2件と少ない
- 遺言書があり、遺産分割協議が不要
- 時間に余裕がある
- 費用を抑えたい
司法書士に依頼する方が良いケース
- 相続人が3人以上
- 不動産が複数ある
- 遺産分割協議が必要
- 時間がない(仕事が忙しいなど)
- 複雑なケース(共有、代償分割など)
- 相続人間でトラブルの可能性がある
6-4. おすすめの選択肢(ケース別)
ケース1:実家(1件)を長男が単独相続、遺言書あり
→ 自分で申請可能(難易度:低)
ケース2:土地・建物2件を兄弟2人で分割相続
→ 自分で可能だが、司法書士依頼も検討(難易度:中)
ケース3:不動産3件以上、相続人3人以上、遺産分割協議が必要
→ 司法書士に依頼推奨(難易度:高)
ケース4:相続人間でトラブルがある
→ 司法書士(場合によっては弁護士)に依頼必須(難易度:高)
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 相続登記の期限はいつまでですか?
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内です。「相続開始を知った日」とは、被相続人が亡くなったことを知り、かつ、自分が相続人であることを知った日を指します。
施行日(2024年4月1日)前に発生した相続についても、2027年3月31日までに登記が必要です。
Q2. 罰則はすぐに適用されますか?
いいえ、すぐには適用されません。法務省は、正当な理由がある場合(相続人間で紛争がある、相続人の特定が困難など)には、過料を科さないとしています。また、法務局からの催告に応じて登記を行えば、過料を科さない方針です。
ただし、今後は運用が厳格化される可能性があるため、早めの対応が推奨されます。
Q3. 未登記のまま放置するとどうなりますか?
10万円以下の過料が科される可能性があるだけでなく、以下のリスクがあります。
- 不動産を売却できない
- 二次相続で権利関係が複雑化する
- 相続人間でトラブルになる
- 小規模宅地等の特例などの税制優遇措置が受けられない可能性がある
Q4. 登記費用はいくらかかりますか?
自分で申請する場合
- 戸籍謄本等の取得費用:5,000-15,000円
- 登録免許税:不動産評価額×0.4%
- 合計:登録免許税+1-2万円程度
司法書士に依頼する場合
- 上記に加えて司法書士報酬:50,000-100,000円
例えば、評価額3,000万円の不動産を相続する場合、登録免許税は12万円、司法書士報酬を含めると総額17-22万円程度です。
Q5. 自分で登記申請できますか?
はい、可能です。法務局のウェブサイトに詳細なマニュアルがあり、登記相談窓口(予約制)で無料相談もできます。
ただし、相続人が多い、不動産が複数ある、遺産分割協議が複雑などのケースでは、司法書士に依頼することをおすすめします。
Q6. 登記と相続税申告の関係は?
相続登記と相続税申告は別の手続きです。
- 相続登記の期限:相続開始を知った日から3年以内
- 相続税申告の期限:相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内
相続税申告が必要な場合(基礎控除額を超える場合)は、相続税申告の方が期限が早いため、先に対応する必要があります。相続登記自体は相続税申告の要件ではありませんが、評価額の確定や税制優遇措置の適用のために、登記情報が必要になる場合があります。
Q7. 複数の相続人がいる場合の登記方法は?
遺産分割協議で決定した内容に基づいて登記します。
パターン1:単独相続
1人の相続人が不動産を取得する場合、その相続人の名義で登記します。
パターン2:共有
複数の相続人で共有する場合、持分を決めて登記します(例:兄1/2、弟1/2)。ただし、共有は後でトラブルになりやすいため、できるだけ避けることをおすすめします。
パターン3:代償分割
1人の相続人が不動産を取得し、他の相続人に金銭を支払う場合、不動産を取得する相続人の名義で登記します。遺産分割協議書に代償金の支払いについて記載します。
Q8. 遺言書がある場合の登記手続きは?
遺言書がある場合、原則として遺言書の内容に従って登記します。
公正証書遺言の場合
そのまま登記申請に使用できます。
自筆証書遺言の場合
家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です(法務局の自筆証書遺言保管制度を利用した場合は検認不要)。検認済みの遺言書を登記申請に使用します。
遺言書がある場合、遺産分割協議は原則不要ですが、相続人全員の合意があれば、遺言書と異なる内容で遺産分割することも可能です。
8. まとめ
相続登記は2024年4月から義務化され、相続開始を知った日から3年以内の登記が必要です。違反すると10万円以下の過料が科されるだけでなく、不動産売却への影響、二次相続のリスク、税制優遇措置を受けられない可能性など、様々なリスクがあります。
施行後半年が経過した2025年10月時点では、登記件数は増加していますが、依然として多くの未対応ケースが残っています。法務局からの催告も始まっており、早めの対応が推奨されます。
不動産鑑定士による評価額の確認と、司法書士による登記手続きを同時に進めることで、スムーズな相続が可能です。特に評価額が高額な不動産や、複数の相続人がいる場合は、専門家の活用をおすすめします。
次のステップ
- 相続人の確定(戸籍調査)
- 不動産の評価額確認
- 遺産分割協議
- 登記申請(自分で申請または司法書士に依頼)