不動産相続

共有名義不動産の相続:トラブルを防ぐ3つの分割方法と注意点【不動産鑑定士が解説】

共有名義不動産の相続:トラブルを防ぐ3つの分割方法と注意点【不動産鑑定士が解説】
公開: 2025-11-15

この記事の結論

共有名義不動産の相続は、将来のトラブルを避けるために慎重な判断が必要です。本記事では、不動産鑑定士の視点から、3つの分割方法(現物分割、代償分割、換価分割)を詳しく比較し、それぞれのメリット・デメリット、適したケースを解説します。

共有名義にする場合も、遺産分割協議書での持分明確化、共有解消の方法(共有物分割請求、相続土地国庫帰属制度)、相続登記義務化への対応など、知っておくべきポイントを実例を交えて紹介します。兄弟姉妹間でトラブルを防ぎ、円満に相続を進めるための実践的なガイドです。

共有名義不動産の相続とは?基礎知識を整理

共有名義とは何か?

共有名義とは、一つの不動産を複数人が共同で所有する状態を指します。各共有者は持分(所有権の割合)を持ち、その割合に応じて権利と義務を負います。

民法第249条では、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と規定されています。例えば、兄弟3人が実家を相続し、それぞれ3分の1ずつの持分で共有する場合、各自が実家全体を使用する権利を持ちますが、実際の使用方法については共有者間で調整が必要になります。

なぜ共有名義で相続するのか?

相続時に共有名義を選択する理由はさまざまです。

遺産分割協議がまとまらない場合に、一旦共有名義にして登記し、後でゆっくり分割方法を決めるケースがあります。相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告が必要なため、時間的な制約から暫定的に共有登記を選ぶ方もいます。

また、相続税の納税資金を確保するため、不動産を一旦共有で相続し、後に売却して税金を支払う計画を立てることもあります。特に不動産の評価額が高く、現金が不足している場合に選択されます。

さらに、遺言書がない場合や遺産分割協議を経ずに相続登記をする場合、法定相続分で相続登記をすることになり、自動的に共有名義となります。

共有名義のメリット

共有名義には以下のようなメリットがあります。

遺産分割協議を先送りできるため、相続人同士の意見がまとまらない場合でも、ひとまず相続登記を完了できます。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内の登記が必要になったため、このメリットは重要性を増しています。

公平性を保てる点も大きなメリットです。持分で明確に分割することで、各相続人が平等に不動産を相続できます。

また、相続税の納税資金を確保しやすいという利点もあります。共有で相続した後に不動産全体を売却し、代金を分配することで、各相続人が納税資金を確保できます。

共有名義のデメリット(リスク)

一方で、共有名義には多くのデメリットとリスクが存在します。

意思決定が困難になることが最大のデメリットです。不動産の売却や大規模な修繕には共有者全員の同意が必要なため(民法第251条)、一人でも反対すると何も決められなくなります。

売却・賃貸が難しいという問題もあります。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要で、一部の共有者が反対すると売却できません。賃貸に出す場合も、持分の過半数の同意が必要です(民法第252条)。

管理責任が曖昧になるリスクもあります。固定資産税の支払いや建物の維持管理について、誰が責任を持つのかが不明確になりがちです。

さらに深刻なのは、次世代にも共有状態が引き継がれる問題です。共有者の一人が亡くなると、その持分はさらに相続され、共有者の数が増え、持分が細分化されていきます。世代を重ねるごとに権利関係が複雑化し、最終的には「誰が何割持っているのか分からない」状態になることもあります。

共有名義を避けるための3つの分割方法

共有名義のリスクを避けるには、遺産分割協議で以下の3つの方法のいずれかを選択し、単独所有にすることが推奨されます。

現物分割:土地を物理的に分ける

方法と仕組み

現物分割は、不動産を物理的に分割し、各相続人が単独で取得する方法です。例えば、広い土地を測量して2つに分け(分筆)、長男と次男がそれぞれ単独で所有するケースです。

メリット

現物分割の最大のメリットは公平性です。各相続人が単独で不動産を所有できるため、売却や活用の自由度が高まります。

また、金銭の授受が不要なため、代償金を準備する必要がなく、相続人の資金負担がありません。

デメリット

一方で、分筆費用がかかるというデメリットがあります。測量費用、登記費用を含めて30万円から100万円程度が必要になります。

また、分割後に不整形地になる可能性があり、土地の形状が悪くなると、評価額が下がったり、活用が難しくなったりします。

さらに、建物が建っている場合は物理的な分割が困難です。

適したケース

現物分割は以下のようなケースに適しています。

  • 広い土地で、分割しても各区画が十分な面積を確保できる
  • 複数の建物がある場合(例:母屋と離れ)
  • 各相続人が土地を活用する意思がある

代償分割:一人が取得し他の相続人に金銭を支払う

方法と仕組み

代償分割は、一人の相続人が不動産を単独で取得し、他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法です。

例えば、長男が3,000万円の実家を相続し、次男に1,000万円の代償金を支払うケース(母が1/2、長男・次男が各1/4の法定相続分の場合)が該当します。

メリット

不動産を分割せず活用しやすいという大きなメリットがあります。実家を残したい、事業用不動産として継続利用したい場合に最適です。

また、各相続人が単独所有になるため、将来の売却や活用が自由にできます。

デメリット

最大のデメリットは代償金の準備が必要なことです。不動産を取得する相続人は、他の相続人に支払う現金を用意しなければなりません。

また、不動産評価額で揉める可能性があります。相続税評価額、時価(実勢価格)、固定資産税評価額のいずれを使うかで意見が分かれることがあります。

適したケース

代償分割は以下のようなケースに適しています。

  • 誰かが実家に住み続ける場合
  • 事業用不動産として継続利用する場合
  • 代償金を支払える資力がある相続人がいる場合

換価分割:不動産を売却して代金を分ける

方法と仕組み

換価分割は、不動産を売却し、その代金を相続人で分配する方法です。

例えば、実家を3,000万円で売却し、売却費用を差し引いた2,850万円を、母が1,425万円(1/2)、長男と次男が各712.5万円(各1/4)で分けるケースです。

メリット

公平性が高いという大きなメリットがあります。現金で分配するため、評価額の問題が生じにくく、各相続人が納得しやすいです。

また、現金化できるため、相続税の納税資金に充てることができます。

さらに、単独所有の問題を回避でき、共有や分筆の複雑さがありません。

デメリット

売却に時間がかかることがデメリットです。買い手が見つかるまで数ヶ月から1年以上かかることもあります。

また、売却費用として仲介手数料(物件価格の3%+6万円+消費税)や測量費用、登記費用が必要です。

さらに、譲渡所得税がかかる場合があります。ただし、相続した実家を売却する場合、一定の要件を満たせば3,000万円の特別控除が適用されることがあります。

適したケース

換価分割は以下のようなケースに適しています。

  • 誰も住まない実家
  • 売却が容易な都市部の不動産
  • 相続税の納税資金が必要な場合

3つの分割方法の比較表

分割方法 メリット デメリット 適したケース 費用目安
現物分割 公平、単独所有、金銭授受不要 分筆費用、不整形地、建物がある場合は困難 広い土地、複数の建物 30-100万円(測量・登記)
代償分割 不動産を維持、活用しやすい、単独所有 代償金の準備、評価額で揉める可能性 実家に住む人がいる、事業用不動産 代償金+登記費用
換価分割 公平、現金化、単独所有の問題回避 売却に時間、売却費用、譲渡所得税 誰も住まない実家、都市部の不動産 仲介手数料(物件価格の3%+6万円+消費税)、譲渡所得税

不動産鑑定士が教える:共有持分の評価と公平な分割のポイント

共有持分の評価方法

相続税評価における持分評価

相続税の計算では、各相続人の相続税評価額は「不動産全体の評価額 × 持分割合」で算出されます。

例えば、不動産全体の評価額が3,000万円で、持分が1/2の場合、相続税評価額は1,500万円となります。

評価方法には以下の2つがあります。

路線価方式(市街地):路線価 × 各種補正率 × 地積で計算します。国税庁が公表する路線価(道路に面した土地の1㎡あたりの評価額)を基に、土地の形状や接道状況に応じた補正を行います。

倍率方式(郊外・農村):固定資産税評価額 × 倍率で計算します。路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価します。

市場価値における持分評価

実際に共有持分を第三者に売却しようとすると、単独所有の場合より価値が大幅に下がる傾向があります。

共有持分のみを購入しても、他の共有者の同意なしに不動産全体を自由に使えないため、買い手が限られるからです。一般的に、共有持分の市場価格は単独所有の場合の50%から70%程度とされています。

代償分割における不動産評価のトラブル予防

評価額の算定方法の選択

代償分割を行う際、不動産の評価額をどの基準で算定するかが重要です。

相続税評価額:相続税申告で使用する評価額です。一般的に時価より低めになります。

時価(実勢価格):実際に市場で売買される価格です。不動産会社の査定や近隣の取引事例を参考にします。

固定資産税評価額:市町村が算定する評価額で、時価の70%程度とされています。

相続人間で意見が分かれることが多いのは、不動産を取得する側は低い評価額を主張し、代償金を受け取る側は高い評価額を主張する傾向があるためです。

不動産鑑定士の活用

トラブルを予防するには、不動産鑑定士に評価を依頼することが有効です。

不動産鑑定士は国家資格を持つ専門家で、中立的な立場から不動産の適正な市場価値を評価します。鑑定評価書は法的にも信頼性が高く、遺産分割協議や裁判でも証拠として認められます。

鑑定費用は物件の規模や複雑さによりますが、一般的な戸建てで20万円から50万円程度です。高額な不動産や意見が対立しているケースでは、鑑定士の活用を検討する価値があります。

遺産分割協議書への明記

評価額と算定根拠を遺産分割協議書に明記することが重要です。

「不動産鑑定士○○による鑑定評価書に基づき、評価額を3,300万円とする」といった記載をすることで、後日のトラブルを防ぐことができます。

実例:共有名義の実家を代償分割で円満解決したケース

状況

父が亡くなり、母と長男・次男の3人で相続することになりました。遺産は実家(戸建て、築20年)のみで、評価額は約3,000万円でした。

長男は結婚後も実家に住み続けており、今後も居住を希望していました。一方、次男は遠方に住んでおり、実家を相続しても活用できないため、代償金を希望しました。

課題

当初、長男は相続税評価額(3,000万円)を基に代償金を計算することを主張しました。これに対し、次男は近隣の取引事例から時価は3,600万円程度だと主張し、意見が対立しました。

解決策

話し合いが平行線をたどったため、双方の合意のもと、不動産鑑定士に評価を依頼しました。鑑定士は近隣の取引事例、建物の劣化状況、土地の利用価値などを総合的に判断し、評価額を3,300万円と算定しました。

この鑑定結果を基に、以下のように遺産分割を行いました。

  • 母:持分1/2(1,650万円)
  • 長男:実家を単独取得、母と次男に代償金を支払う
  • 次男:代償金825万円(3,300万円 × 1/4)を受領

ただし、長男は一括で代償金を支払うことが難しかったため、3年間の分割払い(年275万円)で合意しました。

結果

中立的な第三者による評価により、双方が納得できる金額が決まり、円満に遺産分割協議が成立しました。長男は実家を単独で相続でき、次男も納得できる代償金を受け取ることができました。

相続登記も無事完了し、兄弟関係を維持したまま相続手続きを終えることができました。

評価額による相続税への影響

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、相続税の計算において土地の評価額を大幅に減額できる制度です。

居住用の場合:330㎡まで80%減額されます。例えば、3,000万円の土地であれば、600万円に評価額が下がります。

事業用の場合:400㎡まで80%減額されます。

共有の場合の特例適用

共有名義で相続する場合、要件を満たす相続人の持分についてのみ特例が適用されます。

例えば、配偶者と子が共有で相続し、配偶者が居住を継続する場合、配偶者の持分については特例が適用されますが、子の持分には適用されません。

このため、特例を最大限活用するには、要件を満たす相続人が単独で相続する方が節税効果は高くなります。

共有名義で相続する場合の手続きと注意点

遺産分割協議書の作成

共有名義で相続する場合でも、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。

持分の明確化

各共有者の持分割合を明記することが最も重要です。

「母A、長男B、次男Cは、下記不動産を共有で取得する。持分は、A 1/2、B 1/4、C 1/4とする」といった形で、具体的な割合を記載します。

管理費・固定資産税の負担割合

持分に応じて負担するのか、別の取り決めをするのかを明記します。

「固定資産税及び都市計画税は、持分に応じて各共有者が負担する」といった記載をすることで、後日のトラブルを防げます。

将来の売却・活用方針(任意)

必須ではありませんが、将来の方針を事前に決めておくと安心です。

「共有者全員の合意により、5年後をめどに売却し、代金を持分に応じて分配する」といった記載も可能です。

専門家への相談

遺産分割協議書の作成は、司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。法的に有効な書類を作成でき、登記手続きもスムーズに進みます。

相続登記の手続き(義務化対応)

登記期限

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。

罰則

正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。虚偽の申請をした場合は刑事罰の対象となります。

必要書類

共有名義で相続登記をする場合、以下の書類が必要です。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
  • 印鑑証明書(相続人全員分)
  • 戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までのもの、相続人全員の現在のもの)
  • 住民票(相続人全員分)
  • 固定資産評価証明書
  • 登記申請書

相続人申告登記制度

遺産分割協議がまとまっていない場合でも、相続人申告登記制度を利用すれば、簡易に登記義務を履行できます。

この制度では、氏名・住所と相続人である旨を申告するだけで、登記義務を履行したとみなされます。後日、遺産分割協議が成立したら、正式な所有権移転登記を行います。

共有物の管理・変更のルール(民法改正)

2021年の民法改正により、共有物の管理・変更に関するルールが明確化されました。

変更(増改築、売却)

不動産の増改築、建て替え、用途変更、売却などの「変更行為」には、共有者全員の同意が必要です(民法第251条)。

一人でも反対すると、これらの行為はできません。

管理(賃貸、修繕)

賃貸借契約の締結・解除、軽微でない修繕などの「管理行為」は、持分の過半数で決定できます(民法第252条、2021年改正)。

改正前は共有者全員の同意が必要でしたが、改正により管理の円滑化が図られました。

使用

各共有者は、持分に応じて共有物全体を使用できます(民法第249条)。

ただし、実際の使用方法については共有者間で調整が必要です。

共有者間の合意形成のコツ

定期的な話し合い

年1回程度は共有者全員で集まり、不動産の管理方針や将来の活用方法について話し合うことをおすすめします。

文書化

決定事項は必ず書面に残し、共有者全員が署名・押印します。口頭での合意だけでは、後日「言った・言わない」のトラブルになりかねません。

第三者の活用

意見が対立する場合は、弁護士や不動産鑑定士などの専門家を仲介役として活用することも有効です。中立的な立場からアドバイスを受けることで、冷静な判断ができます。

共有名義を後から解消する方法

協議による共有解消

持分の売買

他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう方法です。

持分の価格は、不動産全体の時価に持分割合を乗じた金額を目安に、共有者間で交渉します。ただし、前述のとおり、共有持分は単独所有より価値が下がる傾向があるため、価格交渉は慎重に行う必要があります。

全体の売却

共有者全員の同意のもと、不動産全体を売却し、代金を持分に応じて分配します。

これが最もシンプルで公平な解消方法ですが、全員の同意が必要なため、一人でも反対すると実現できません。

現物分割

協議により土地を分筆し、各共有者が単独で所有する方法です。

測量費用や登記費用がかかりますが、各自が自由に活用できるようになります。

共有物分割請求(裁判手続き)

協議が調わない場合、裁判所に共有物の分割を請求できます(民法第256条)。

3つの分割方式

裁判所は、以下の3つの方式から最も適切な方法を選択します。

現物分割:土地を物理的に分ける方法です。分筆が可能な広い土地の場合に選択されます。

代償分割:一部の共有者が不動産を取得し、他の共有者に金銭を支払う方法です。不動産を維持する必要がある場合や、分筆が困難な場合に選択されます。

競売分割:不動産を競売にかけ、代金を分配する方法です。現物分割も代償分割も困難な場合に、最終手段として選択されます。

手続きの流れ

まず、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員が間に入り、各共有者の意見を聞きながら調整します。

調停で合意できない場合は、訴訟に移行し、裁判所が分割方法を決定します。

手続き全体で6ヶ月から1年以上かかることが一般的です。

費用

弁護士費用として30万円から100万円程度が必要です(物件の価格や事案の複雑さによる)。

また、裁判所への申立手数料や鑑定費用(必要な場合)も発生します。

注意点

競売分割になると、市場価格より20%から30%程度低い価格で落札されることが多いため、できるだけ協議や調停での解決を目指すべきです。

相続土地国庫帰属制度の活用

制度の概要

相続土地国庫帰属制度は、2023年4月に開始された制度で、不要な土地を国に引き渡すことができます。

売却が困難な地方の土地や、管理負担が大きい土地を手放す選択肢として注目されています。

要件

以下の要件を満たす必要があります。

  • 建物がないこと
  • 担保権や使用収益権が設定されていないこと
  • 境界が明確であること
  • 土壌汚染や埋設物がないこと
  • 崖地でないこと(勾配30度以上、高さ5m以上)
  • その他、管理に過分の費用・労力を要しないこと

共有の場合の注意点

共有不動産の場合、共有者全員の同意が必要です。一部の共有者のみが持分を国に引き渡すことはできません。

費用

審査手数料として1.4万円(1筆あたり)、負担金として面積に応じて20万円から数百万円が必要です。

負担金は、10年分の管理費相当額を一括で支払う仕組みです。

検討すべきケース

以下のようなケースでは、相続土地国庫帰属制度の活用を検討する価値があります。

  • 売却困難な地方の土地
  • 管理負担が大きい山林や農地
  • 固定資産税の負担を減らしたい場合

所在不明共有者がいる場合の対応

裁判所の決定による管理・変更

2021年の民法改正により、所在不明者以外の共有者で不動産の管理・変更ができる制度が創設されました。

地方裁判所に申し立てを行い、決定を得ることで、所在不明共有者の同意なしに管理行為(賃貸など)や変更行為(売却など)が可能になります。

持分の取得

一定の要件のもと、裁判所の決定により、所在不明者の持分を取得することもできます。

持分取得には、適正な対価を供託する必要があります。

手続き

家庭裁判所または地方裁判所に申し立てを行います。

所在不明であることを証明するため、戸籍調査や住民票の調査を行い、公示催告の手続きを経る必要があります。

共有名義相続でよくあるトラブルと予防策

トラブル事例1:売却で意見が合わない

状況

兄は「遠方に住んでおり管理が大変なので売却したい」と考えています。一方、弟は「実家を手放したくない。将来子供が使うかもしれない」と保有を希望しています。

原因

遺産分割時に将来の方針を決めていなかったため、意見が対立しました。

予防策

遺産分割協議の段階で、以下のような将来の方針を話し合っておくことが重要です。

  • 期限付きで共有(例:5年後に売却を検討する)
  • 一定の条件が満たされたら売却(例:母が亡くなったら売却)
  • 買取オプション(例:一方が希望すれば他方が持分を買い取る)

こうした取り決めを遺産分割協議書に記載しておけば、後日のトラブルを防げます。

トラブル事例2:管理費・固定資産税の負担で揉める

状況

長男が実家に住んでおり、固定資産税を全額負担しています。しかし、次男と三男は「共有なのだから持分に応じて負担すべき」と支払いを拒否しています。

原因

遺産分割協議書で負担割合を明確にしていなかったため、認識の違いが生じました。

予防策

遺産分割協議書に以下のような記載をすることで、トラブルを防げます。

「固定資産税及び都市計画税は、持分に応じて各共有者が負担する。長男が立て替えて支払った場合、次男・三男は年1回、12月末日までに長男に精算する」

また、定期的に共有者間で収支を報告し、精算することも重要です。

トラブル事例3:共有者の一人が認知症になった

状況

母が認知症を発症し、意思能力を失いました。実家を売却したいが、母の同意が得られず、手続きが進められません。

原因

早期に対策を講じなかったため、母の意思能力が失われてから対応に苦慮することになりました。

予防策

高齢の共有者がいる場合、早めに以下の対策を検討しましょう。

成年後見制度の利用:家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらいます。後見人が本人に代わって不動産の売却などの法律行為を行うことができます。

ただし、後見人による不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要で、本人の利益にならない売却は認められないことがあります。

家族信託の活用:認知症になる前に、信頼できる家族(受託者)に不動産の管理・処分を任せる契約を結びます。

受託者は信託契約の範囲内で、本人の意思能力が失われた後も不動産を売却・活用できます。成年後見制度より柔軟な対応が可能です。

トラブル予防のチェックリスト

共有名義で相続する場合、以下の項目をチェックしましょう。

  • 遺産分割協議書で持分を明確にする
  • 将来の売却・活用方針を話し合う
  • 管理費・固定資産税の負担割合を決める
  • 定期的に共有者全員で話し合う機会を設ける
  • 決定事項は必ず書面に残す
  • 高齢の共有者がいる場合、成年後見や家族信託を検討する
  • 必要に応じて専門家(弁護士、司法書士、税理士、不動産鑑定士)に相談する

よくある質問(FAQ)

Q1. 共有名義のまま相続登記をするとどうなりますか?

共有名義で相続登記をすると、各相続人は持分に応じて不動産を共同所有することになります。将来的に売却や活用をする際には、共有者全員の同意が必要になるため、意思決定が難しくなる可能性があります。

また、次の世代に相続する際にも共有状態が引き継がれ、持分がさらに細分化されるリスクがあります。世代を重ねるごとに共有者の数が増え、権利関係が複雑化していきます。

Q2. 共有名義を避けるにはどうすればいいですか?

共有名義を避けるには、遺産分割協議で3つの分割方法(現物分割、代償分割、換価分割)のいずれかを選択し、単独所有にすることが推奨されます。

誰が不動産を取得するか、他の相続人にどのように公平性を確保するか(代償金を支払う、他の財産で調整する、など)を話し合い、遺産分割協議書に明記しましょう。

専門家(司法書士、弁護士、税理士)に相談することで、適切な分割方法を選択できます。

Q3. 代償分割の代償金はどのように決めますか?

代償金は不動産の評価額を基に計算します。評価額の算定方法(相続税評価額、時価、固定資産税評価額)で意見が分かれることがあるため、不動産鑑定士に評価を依頼することで中立的な評価額を得ることができます。

鑑定士による評価額をもとに、法定相続分に応じた代償金を計算します。代償金の支払いが一括で難しい場合は、分割払いで合意することも可能です。

Q4. 共有名義の不動産を後から分割できますか?

可能です。共有者間の協議で持分を売買したり、不動産全体を売却して代金を分配する換価分割が一般的です。

協議が調わない場合は、裁判所に共有物分割請求を行うこともできます。裁判所は現物分割、代償分割、競売分割のいずれかの方法で分割を命じます。

ただし、裁判手続きには時間と費用がかかるため、できるだけ協議での解決を目指しましょう。

Q5. 共有者の一人が勝手に持分を売却できますか?

各共有者は自分の持分のみを自由に売却できます(民法第206条)。他の共有者の同意は不要です。

ただし、共有持分のみを購入する人は限られるため、市場価格より低くなる傾向があります。また、持分を第三者に売却されると、見知らぬ人と共有することになり、トラブルの原因となります。

このリスクを避けるため、遺産分割協議書で「持分を売却する際は、他の共有者に優先的に売却の機会を与える」といった取り決めをしておくことも有効です。

Q6. 共有名義で相続税の特例(小規模宅地等の特例)は使えますか?

使えますが、適用できるのは要件を満たす相続人の持分についてのみです。

例えば、配偶者と子が共有で相続し、配偶者が居住を継続する場合、配偶者の持分については特例が適用され80%減額されますが、子の持分には適用されません。

特例を最大限活用するには、要件を満たす相続人が単独で相続する方が節税効果は高くなります。税理士に相談し、最適な分割方法を検討しましょう。

Q7. 遺産分割協議がまとまらない場合、どうすればいいですか?

遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。

調停では、調停委員が間に入り、各相続人の意見を聞きながら調整します。調停委員は法律の専門家ではありませんが、中立的な立場から話し合いをサポートします。

調停でも合意できない場合は、審判に移行し、裁判所が分割方法を決定します。

調停・審判には時間がかかるため、できるだけ話し合いで解決することが望ましいです。弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けることも有効です。

Q8. 相続登記義務化で共有名義の場合も登記が必要ですか?

はい、必要です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。

共有名義で相続する場合も、各共有者の持分を明記して登記する必要があります。遺産分割協議書を作成し、法定相続分と異なる持分で相続する場合はその内容を登記に反映させます。

遺産分割協議がまとまっていない場合でも、相続人申告登記制度を利用すれば、ひとまず登記義務を履行したとみなされます。

Q9. 相続土地国庫帰属制度は共有名義でも使えますか?

使えますが、共有者全員の同意が必要です。一部の共有者のみが持分を国に引き渡すことはできません。

また、建物がない、担保権がない、境界が明確などの要件を満たす必要があります。審査手数料(1.4万円)と負担金(面積に応じて20万円から)が必要です。

売却が困難な地方の土地や、管理負担が大きい土地を手放す選択肢として検討する価値があります。法務局に事前相談することをおすすめします。

Q10. 共有名義の不動産を相続放棄できますか?

相続放棄は「すべての相続財産」を放棄することを意味し、共有持分のみを選択的に放棄することはできません。

相続放棄をすると、不動産の共有持分だけでなく、預貯金などの他の相続財産もすべて放棄することになります。また、相続放棄は相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

共有持分だけを手放したい場合は、相続放棄ではなく、他の共有者に持分を譲渡する、または相続後に共有物分割請求をするなどの方法を検討しましょう。

まとめ

共有名義不動産の相続は、将来のトラブルを避けるために慎重な判断が必要です。本記事のポイントをまとめます。

共有名義のリスクを理解する

意思決定の困難、売却・活用の難しさ、次世代への引き継ぎによる持分の細分化など、共有名義には多くのリスクがあります。相続時点でこれらのリスクを十分に理解し、慎重に判断しましょう。

3つの分割方法から最適な方法を選ぶ

現物分割(土地を物理的に分ける)、代償分割(一人が取得し他に金銭を支払う)、換価分割(売却して代金を分配)から、家族の状況に合った方法を選びましょう。それぞれにメリット・デメリットがあるため、専門家に相談しながら決定することが重要です。

不動産評価額でトラブルを防ぐ

代償分割では不動産の評価額で揉めることがあります。不動産鑑定士に評価を依頼することで、中立的な評価額を得られ、納得感を高めることができます。

共有名義で相続する場合は遺産分割協議書で持分を明確化

将来のトラブルを避けるために、各共有者の持分割合、管理費・固定資産税の負担割合、将来の売却方針などを遺産分割協議書に明記しましょう。

相続登記義務化に対応する

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと過料が科される可能性があります。共有名義の場合も必ず登記を行いましょう。

共有解消の方法を知っておく

協議による売買・売却、共有物分割請求、相続土地国庫帰属制度など、共有状態を解消する方法があります。共有状態が長期化する前に、早めに対策を講じましょう。

共有名義不動産の相続は、法律・税務・不動産評価の専門知識が求められます。トラブルを避け、円満に相続を進めるために、専門家への相談をおすすめします。

専門家への相談をおすすめするケース

以下のような場合は、弁護士・税理士・司法書士・不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします。

  • 共有名義にするか単独所有にするか判断に迷う場合
  • 代償分割で不動産の評価額に意見の相違がある場合
  • 共有者間で意見が対立し、調整が困難な場合
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北原 崇寛

北原 崇寛

不動産鑑定士・宅地建物取引士

大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。