アパート・賃貸マンション経営の相続:手続きと評価方法を完全解説【2025年版】

この記事の結論
アパートや賃貸マンションを相続する際は、以下の3つのポイントが重要です。
- 相続発生後30日以内に初動対応を行う:賃貸借契約の引き継ぎ、管理会社への連絡、賃借人への通知が必要
- 相続税評価額を正確に算定する:貸家建付地の評価減(最大21%減額)と小規模宅地特例(50%減額)を活用
- 売却か継続かを冷静に判断する:築年数、利回り、空室率、立地を総合的に検討
本記事では、賃貸不動産の相続手続きから評価方法、遺産分割の注意点、売却vs継続の判断基準まで、実例を交えて詳しく解説します。
アパート・賃貸マンションの相続とは:収益不動産ならではの特徴
一般的な不動産相続との違い
アパートや賃貸マンションなどの収益不動産を相続する場合、自宅を相続する場合とは異なる特有の課題があります。
収益不動産特有の課題
| 項目 | 自宅の相続 | 収益不動産の相続 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約 | なし | 賃借人との契約引き継ぎが必要 |
| 家賃収入 | なし | 相続発生後も継続して発生 |
| 管理業務 | なし | 管理会社への連絡・契約変更 |
| 相続税評価 | 自用地評価 | 貸家建付地評価(評価減あり) |
| 確定申告 | 不要 | 不動産所得の申告が必要 |
収益不動産を相続すると、賃借人との契約関係を引き継ぐことになります。賃料収入が入る一方、管理責任も発生するため、相続発生後すぐに対応すべきことが多くあります。
相続発生時の初動対応(30日以内)
アパートやマンションを相続したら、まず以下の対応を行います。
賃貸借契約の確認
被相続人(亡くなった方)が賃貸借契約の貸主として契約していた場合、相続人がその地位を引き継ぎます。まずは以下を確認しましょう。
- 賃貸借契約書の内容(契約期間、賃料、敷金・保証金)
- 現在の入居状況(各部屋の入居者名、契約開始日)
- 滞納の有無
管理会社への連絡
管理会社に委託している場合は、被相続人の死亡と相続人の連絡先を伝えます。
- 管理委託契約の継続・変更
- 家賃の振込先口座の変更
- 緊急連絡先の変更
賃借人への通知
賃借人に対しては、以下の内容を書面で通知します。
- 所有者(貸主)が変更になったこと
- 新しい所有者の氏名・連絡先
- 家賃の振込先口座の変更
よくある相続パターン
収益不動産の相続では、以下のようなパターンが多く見られます。
パターン1:単独相続
相続人の1人がアパートを単独で相続するケースです。管理がしやすく、意思決定も迅速にできますが、他の相続人に代償金を支払う必要がある場合があります。
パターン2:共有相続
複数の相続人で共有名義にするケースです。遺産分割協議がまとまらない場合に暫定的に選ばれることがありますが、後々トラブルになりやすいため注意が必要です。
パターン3:ローン残債がある場合
被相続人がアパートローンを返済中だった場合、そのローン債務も相続することになります。団体信用生命保険に加入していれば、保険金でローンが完済されることもあります。
賃貸不動産の相続税評価の方法:貸家建付地と借家権割合
貸家建付地の評価方法
賃貸用の土地(貸家建付地)は、自用地よりも相続税評価額が低くなります。これは、賃借人がいることで土地の利用が制限されるためです。
貸家建付地の評価額計算式
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
各項目の意味
- 自用地としての価額:路線価方式または倍率方式で計算した土地の評価額
- 借地権割合:路線価図に記載されている割合(A=90%〜G=30%)
- 借家権割合:全国一律30%
- 賃貸割合:相続開始時点の賃貸面積 ÷ 賃貸可能面積
評価減の効果:シミュレーション
具体的な数字で評価減の効果を見てみましょう。
ケース1:借地権割合70%、賃貸割合100%の場合
評価減率 = 70% × 30% × 100% = 21%
自用地評価額が5,000万円の場合:
- 貸家建付地評価額 = 5,000万円 × (1 - 21%) = 3,950万円
- 評価減額 = 1,050万円
ケース2:借地権割合60%、賃貸割合80%の場合(空室あり)
評価減率 = 60% × 30% × 80% = 14.4%
自用地評価額が5,000万円の場合:
- 貸家建付地評価額 = 5,000万円 × (1 - 14.4%) = 4,280万円
- 評価減額 = 720万円
このように、空室があると賃貸割合が下がり、評価減の効果も小さくなります。相続対策としては、空室を減らして賃貸割合を高く維持することが重要です。
建物(貸家)の評価方法
賃貸用の建物も、評価減の対象となります。
貸家の評価額計算式
貸家の価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
賃貸割合100%の場合、借家権割合30%分の評価減が受けられます。
計算例
固定資産税評価額が1,000万円、賃貸割合100%の場合:
- 貸家の評価額 = 1,000万円 × (1 - 30% × 100%) = 700万円
- 評価減額 = 300万円
小規模宅地特例(貸付事業用宅地等)の適用
賃貸用の土地については、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」を適用できます。
貸付事業用宅地等の特例の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 減額割合 | 50% |
| 限度面積 | 200㎡ |
| 主な要件 | 相続人が事業を承継し、申告期限まで保有・継続 |
適用要件の詳細
- 被相続人が相続開始前3年を超えて貸付事業を行っていたこと
- 相続人が貸付事業を承継すること
- 相続税の申告期限まで土地を保有し、貸付事業を継続すること
注意点
相続開始前3年以内に新たに貸付を開始した宅地は、原則として特例の対象外です。これは、相続直前に土地を購入して節税することを防ぐための規定です。
詳しくは小規模宅地等の特例を最大限活用する方法をご覧ください。
賃貸不動産の評価実務:相続税評価と市場価格の違い
収益還元法による評価の考え方
不動産の市場価格を算定する際、収益物件では「収益還元法」が重視されます。これは、その不動産が将来生み出す収益を現在価値に割り引いて評価する方法です。
収益還元法の基本式(直接還元法)
不動産価格 = 年間純収益 ÷ 還元利回り
計算例
- 年間家賃収入:600万円
- 年間経費:180万円
- 年間純収益:420万円
- 還元利回り:6%
不動産価格 = 420万円 ÷ 6% = 7,000万円
相続税評価額と市場価格の違い
相続税評価額と市場価格(実際に売れる価格)は、必ずしも一致しません。
主な違い
| 評価方法 | 相続税評価額 | 市場価格(時価) |
|---|---|---|
| 土地 | 路線価(時価の約80%) | 実際の取引価格 |
| 建物 | 固定資産税評価額 | 築年数・状態を反映 |
| 収益性 | 考慮しない | 利回りで評価 |
特に築年数が古い物件や、立地が悪い物件では、相続税評価額が市場価格を上回ることもあります。このような場合、相続税を払うために売却しようとしても、想定より低い価格でしか売れないというリスクがあります。
不動産鑑定士に依頼すべきケース
以下のようなケースでは、不動産鑑定士による鑑定評価を検討しましょう。
- 相続税評価額が高すぎると感じる場合
- 遺産分割で不動産の価値について相続人間で意見が分かれる場合
- 特殊な物件(不整形地、借地権付き建物など)の場合
- 売却を検討しており、適正価格を知りたい場合
不動産鑑定士による鑑定評価書があれば、相続税の修正申告や遺産分割協議の根拠資料として活用できます。
遺産分割の注意点:現金vs不動産のバランス
現金と不動産のバランスが重要
相続財産に占める不動産の割合が高い場合、以下の問題が発生しやすくなります。
不動産が多い場合の問題点
- 納税資金の不足:相続税は現金で納付する必要があるが、手元に現金がない
- 遺産分割の困難:不動産は分割しにくく、公平な分配が難しい
- 評価額の意見の相違:相続人ごとに不動産の価値認識が異なる
共有名義のリスク
「とりあえず共有名義にしておこう」という判断は、後々大きなトラブルの原因になります。
共有名義のデメリット
- 管理方針が決まらない:修繕や家賃改定など、重要事項の決定に全員の同意が必要
- 売却時に全員の同意が必要:1人でも反対すれば売却できない
- 次世代でさらに複雑化:共有者が亡くなると、その持分がさらに分割される
共有名義での相続は極力避け、代償分割などの方法を検討しましょう。詳しくは共有名義不動産の相続:トラブルを防ぐ5つのポイントをご覧ください。
代償分割の活用
代償分割とは、特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に現金を支払う方法です。
代償分割の例
相続財産:アパート(評価額3,000万円)、預貯金500万円 相続人:長男、次男、三男(法定相続分は各1/3)
- 長男がアパートを単独で取得
- 長男が次男・三男にそれぞれ代償金を支払う
- 代償金の計算:(3,000万円 + 500万円)÷ 3 = 約1,167万円
この方法なら、アパートの管理は長男1人で行え、次男・三男は現金を受け取れるため、全員が納得しやすくなります。
売却vs継続の判断基準:キャッシュフロー分析
売却と継続のメリット・デメリット
相続したアパートを売却するか、継続経営するかは、多くの相続人が悩むポイントです。
売却のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 納税資金を確保できる | 安定収入がなくなる |
| 管理負担から解放される | 譲渡所得税がかかる場合がある |
| 現金化して分割しやすい | 不動産市況によっては安く売れる |
継続経営のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 安定した家賃収入が得られる | 管理負担がある |
| インフレ対策になる | 空室・家賃下落リスクがある |
| 資産として子孫に残せる | 修繕費がかかる |
キャッシュフロー分析の方法
売却か継続かを判断するには、キャッシュフロー(手残り)を計算して比較します。
年間キャッシュフローの計算
年間キャッシュフロー = 家賃収入 - 経費 - ローン返済
経費の内訳
- 管理費(家賃収入の5〜10%)
- 修繕積立金
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料
- その他(広告費、弁護士費用など)
売却判断のチェックリスト
以下の項目に複数該当する場合は、売却を検討した方がよいかもしれません。
売却を検討すべき状況
- 築年数が30年以上で、大規模修繕が必要
- 実質利回りが5%未満
- 空室率が30%以上
- 駅から徒歩15分以上、または人口減少地域
- ローン残債があり、返済が負担
- 管理に時間や労力をかけられない
実例:築25年アパートの判断
物件概要
- 所在地:地方都市郊外
- 構造:木造2階建て、6戸
- 築年数:25年
- 土地:150㎡
- 建物延床面積:180㎡
収支シミュレーション
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| 家賃収入(満室時) | 576万円(8万円×6戸×12ヶ月) |
| 現在の家賃収入(賃貸割合83%) | 478万円 |
| 管理費 | 48万円 |
| 修繕費 | 60万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 40万円 |
| その他経費 | 30万円 |
| 年間キャッシュフロー | 300万円 |
判断
- 実質利回り:300万円 ÷ 推定市場価格5,000万円 = 6%
- 空室率:17%(6戸中1戸空室)
- 築年数:25年(あと10〜15年は大規模修繕なしで運用可能)
この物件の場合、立地が駅徒歩10分と良好で、実質利回りも6%と悪くありません。ただし、今後の人口動態や競合物件の状況を見ながら、5〜10年以内に売却を検討するのが現実的でしょう。
相続手続きの流れ:10ヶ月以内に完了すべきこと
相続登記(3年以内に義務化)
2024年4月から、相続登記が義務化されました。
相続登記の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期限 | 相続を知ってから3年以内 |
| 罰則 | 正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料 |
| 必要書類 | 遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、戸籍謄本など |
| 費用 | 登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)+ 司法書士報酬(5〜10万円) |
詳しくは相続登記義務化の実務対応ガイドをご覧ください。
相続税申告(10ヶ月以内)
相続税の申告・納付期限は、相続開始から10ヶ月以内です。
基礎控除額
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例:法定相続人が3人の場合
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
相続財産の総額がこの基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要です。
納税方法
- 現金一括納付:原則的な方法
- 延納:最大20年の分割払い(利子税がかかる)
- 物納:現金の代わりに不動産などで納付
確定申告(不動産所得)
相続した賃貸不動産からの家賃収入は、不動産所得として確定申告が必要です。
申告が必要なケース
- 準確定申告:被相続人の相続開始日までの不動産所得(相続開始から4ヶ月以内)
- 相続人の確定申告:相続後の不動産所得(翌年2〜3月)
よくあるトラブルと対策
納税資金不足
原因
- 相続財産のほとんどが不動産で、現金が少ない
- 相続税評価額が想定より高かった
- 生前に対策をしていなかった
対策
- 生命保険の活用(死亡保険金は500万円×法定相続人の数まで非課税)
- 一部売却による現金化
- 延納・物納の検討
賃借人とのトラブル
よくあるトラブル
- 家賃滞納
- 原状回復をめぐる紛争
- 契約更新拒絶
対策
- 管理会社への委託
- 家賃保証会社の利用
- 弁護士への早期相談
ローン残債の処理
確認すべきポイント
- ローン残債の金額
- 団体信用生命保険(団信)の加入状況
- 連帯保証人の有無
団信に加入していれば、被相続人の死亡により保険金でローンが完済されます。加入していない場合は、相続人がローンを引き継ぐか、物件を売却してローンを返済するかを検討します。
ローン残債が物件価格を上回る(オーバーローン)場合は、相続放棄も選択肢の一つです。詳しくは相続放棄の期限と手続き完全ガイドをご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. アパートを相続したら、すぐにやるべきことは何ですか?
まず、管理会社への連絡と賃借人への通知を行いましょう。賃料の振込先変更など、継続的な収入を確保することが最優先です。その後、賃貸借契約書や入居状況の確認、相続税評価額の試算に進みます。
Q2. 相続税評価額はいくらになりますか?
土地は「貸家建付地」として、建物は「貸家」として評価されます。借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合、土地は自用地評価額の79%、建物は固定資産税評価額の70%となります。小規模宅地特例を適用できれば、さらに50%減額されます。
Q3. 小規模宅地特例は適用できますか?
「貸付事業用宅地等」として、200㎡まで50%減額が適用できます。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付を開始した宅地は原則として対象外です。また、相続人が事業を承継し、申告期限まで保有・継続する必要があります。
Q4. 売却すべきか、継続すべきか、どう判断すればいいですか?
築年数、実質利回り、空室率、立地、管理負担などを総合的に判断します。築30年以上、実質利回り5%未満、空室率30%以上、駅徒歩15分以上などの条件に複数該当する場合は、売却を検討した方がよいでしょう。
Q5. 共有名義で相続した場合、どうすればいいですか?
共有状態を解消することをおすすめします。方法としては、(1)共有者の一人が他の共有者の持分を買い取る、(2)全員で売却して代金を分ける、(3)共有物分割請求で裁判所に分割を求める、などがあります。
Q6. ローン残債がある場合、どうなりますか?
ローン債務も相続の対象です。団体信用生命保険に加入していれば保険金で完済されますが、加入していない場合は相続人が債務を引き継ぎます。ローン残債が物件価格を上回る場合は、相続放棄も検討してください。
Q7. 相続登記の期限はいつまでですか?
2024年4月から、相続を知ってから3年以内に相続登記を行うことが義務化されました。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
Q8. 相続税申告は自分でできますか?
基礎控除を大きく超えない簡単なケースであれば、自分で申告することも可能です。ただし、収益不動産が含まれる場合は評価が複雑になるため、税理士への依頼をおすすめします。税理士費用の目安は、遺産総額の0.5〜1%程度です。
Q9. 管理会社を変更したいのですが、可能ですか?
可能です。現在の管理会社との契約内容(解約予告期間など)を確認し、新しい管理会社を選定して引き継ぎを行います。管理会社の変更によって賃借人への対応に空白期間ができないよう、計画的に進めましょう。
Q10. 家賃収入の確定申告はどうすればいいですか?
被相続人の相続開始日までの家賃収入は「準確定申告」として4ヶ月以内に、相続後の家賃収入は相続人の「確定申告」として翌年2〜3月に申告します。経費として、管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費などを計上できます。
まとめ
アパートや賃貸マンション経営の相続は、一般的な不動産相続よりも複雑です。以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
- 相続税評価の正確な算定:貸家建付地の評価減(最大21%減額)と小規模宅地特例(50%減額)を活用し、評価額を適切に下げましょう。
- 遺産分割での注意:共有名義は避け、代償分割を検討しましょう。現金と不動産のバランスが重要です。
- 売却vs継続の判断:キャッシュフロー分析、築年数、利回り、空室率を基に、冷静に判断しましょう。
収益不動産の相続は、税務・法律・不動産実務の知識が必要です。相続財産が基礎控除を超える場合や、評価額に疑問がある場合は、税理士や不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします。
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北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


