農地・田畑の相続手続きと売却方法【農業委員会の許可手続き完全ガイド】

この記事の結論
親の農地を相続したサラリーマンの方へ。農地相続は一般の不動産とは異なる特別な手続きが必要ですが、ポイントを押さえれば問題なく進められます。
重要ポイント:
- 相続自体は農業委員会の許可不要だが、相続後10ヶ月以内に届出が必要
- 売却する場合は農地法第5条の許可が必要(農地転用を伴う場合)
- 「農業をしない相続人」の選択肢は、売却・貸出・転用・放置の4つ
- 納税猶予特例は農業継続が条件のため、サラリーマン相続人は要注意
- 土地改良区の負債など隠れたコストの確認が必須
本記事では、農業委員会への届出方法、売却・貸出・転用の手続き、選択肢の比較を、書式例とフローチャート付きで徹底解説します。
1. 農地相続の基礎知識
1-1. 農地相続は一般の不動産相続と何が違う?
農地の相続は、宅地や建物などの一般的な不動産相続とは大きく異なります。最も重要なのは、農地法による利用制限があることです。
通常の不動産相続では、相続登記を完了すればその後は自由に売却・賃貸・建築などができます。しかし農地の場合、これらの行為には農業委員会の許可や届出が必要になります。
農地相続の特徴:
農業委員会への届出義務
相続後10ヶ月以内に、農地がある市町村の農業委員会へ届出を行う必要があります(農地法第3条の3)。この届出を怠っても罰則はありませんが、将来的な売却・貸出の手続きに支障が出る可能性があるため、必ず行いましょう。
売却・貸出には許可が必要
農地を売却または賃貸する場合、農業委員会の許可が必要です。許可なしに契約しても無効となりますので、注意が必要です。許可の種類は、農地のまま売買するか、転用を伴うかによって異なります。
納税猶予特例の適用要件
農地を相続した場合、一定要件を満たせば相続税の納税猶予が受けられます。ただしこの特例は、相続人が農業を継続することが条件です。サラリーマンなど農業をしない相続人は、基本的に利用できません。
1-2. 農地法第3条と第5条の違い
農地の売却・貸出を考える際、必ず理解しておくべきなのが「農地法第3条」と「農地法第5条」の違いです。これらは、農地をどのように利用するかによって必要な許可が異なります。
| 項目 | 第3条(農地のまま) | 第5条(転用を伴う) |
|---|---|---|
| 用途 | 農地のまま売買・貸借 | 農地以外に転用して売買 |
| 相続時の手続き | 許可不要(届出のみ) | 許可不要(届出のみ) |
| 売却・貸出時の許可 | 必要 | 必要 |
| 譲受人の要件 | 農業従事者であること | 転用目的が確実であること |
| 許可難易度 | やや厳しい(農業従事者要件) | 立地による(農用地区域は困難) |
第3条の具体例:
- 農家Aさんが農地を農家Bさんに売却(農地のまま)
- 相続人が農地を近隣の農家に賃貸(農地のまま)
この場合、譲受人(買主・借主)が農業従事者である必要があります。具体的には、年間150日以上農業に従事していること、所有している農地と合わせて一定面積以上(都府県で50a、北海道で2ha)を耕作できることなどの要件があります。
第5条の具体例:
- 農地を宅地に転用して売却
- 農地を駐車場に転用して賃貸
- 農地を太陽光発電用地に転用して売却
この場合、転用目的が確実であること(資金計画、技術力など)、周辺農地への被害防除措置が取られていることなどが審査されます。立地によって許可難易度が大きく変わり、農用地区域内の農地は原則として転用不許可となります。
相続時の違い:
相続自体は農業委員会の許可が不要です。ただし、相続後10ヶ月以内に農業委員会への届出(農地法第3条の3)が必要になります。相続後に農地を売却・賃貸する際には、第3条または第5条の許可が必要です。
1-3. 農業委員会の役割
農業委員会は、各市町村に設置されている行政委員会です。農地法に基づく様々な業務を担当しており、農地相続においては重要な役割を果たします。
主な業務:
農地法に基づく許可・届出の受理
農地の売買・賃貸借・転用などの許可申請を審査し、許可・不許可を判断します。また、農地相続の届出を受理し、地域の農地台帳を管理しています。
農地の適正利用の監視
耕作放棄地の発生防止や解消、違法転用の防止などを行います。農地が適正に利用されているか定期的にパトロールを実施し、問題がある場合は指導を行います。
地域農業の振興
農地の利用集積、新規就農者の支援、農地中間管理機構との連携などを通じて、地域農業の維持・発展に貢献しています。
相続時の窓口:
農地を相続した場合、まず農業委員会に相談することをおすすめします。相続後の届出方法、売却・貸出の手続き、農地区分の確認など、農地に関する様々な相談に応じてくれます。市町村によって窓口の名称が異なる場合がありますので、市町村のホームページで確認しましょう。
2. 相続発生後の手続き【4ステップ】
農地を相続した場合、以下の4つのステップで手続きを進めます。期限が設定されているものもありますので、計画的に進めましょう。
2-1. ステップ1: 相続登記(法務局)
相続登記は、被相続人(亡くなった方)名義の不動産を相続人名義に変更する手続きです。2024年4月より相続登記が義務化されましたので、必ず期限内に行いましょう。
期限: 相続発生を知った日から3年以内
必要書類:
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(遺産分割した場合)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
費用:
- 登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬: 3-7万円程度(依頼する場合)
手続きの流れ:
- 戸籍謄本などの必要書類を収集
- 登記申請書を作成
- 法務局に申請
- 登記完了(通常1-2週間)
相続登記は自分で行うこともできますが、戸籍の読み方や登記申請書の書き方に不安がある場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。
2-2. ステップ2: 農業委員会への届出
相続登記が完了したら、農地がある市町村の農業委員会へ届出を行います。この届出は農地法第3条の3に基づくもので、相続後10ヶ月以内に行う必要があります。
期限: 相続後10ヶ月以内
届出書類:
- 農地法第3条の3に基づく届出書
- 相続人の住民票
- 相続登記完了後の登記事項証明書
- 土地の全部事項証明書
届出書の記入例:
届出書には、以下の情報を記入します:
- 届出者情報: 相続人の氏名、住所、電話番号
- 被相続人情報: 亡くなった方の氏名、死亡年月日
- 農地の情報: 所在地、地目、地積(面積)
- 取得原因: 相続(相続発生日)
- 今後の利用方針: 自己耕作・貸付・売却など
市町村によって書式が異なる場合がありますので、農業委員会の窓口またはホームページで様式を入手しましょう。記入方法に不安がある場合は、窓口で相談すれば丁寧に教えてもらえます。
届出の流れ:
- 市町村の農業委員会に書類を提出
- 受理通知を受け取る(通常1-2週間)
- 届出完了
届出を忘れた場合:
届出義務に違反しても罰則はありませんが、農業委員会が農地の状況を把握できず、将来的な売却・貸出の手続きに支障が出る可能性があります。気付いた時点で速やかに届出を行ってください。
2-3. ステップ3: 固定資産税の納税義務者変更
相続登記が完了したら、市町村の税務課に納税義務者変更の手続きを行います。この手続きにより、翌年度からの固定資産税が相続人宛に請求されるようになります。
手続き先: 市町村の税務課
必要書類:
- 相続登記完了後の登記事項証明書
- 相続人の本人確認書類
多くの市町村では、法務局から相続登記の情報が自動的に税務課に通知されるため、特別な手続きが不要な場合もあります。ただし、念のため市町村の税務課に確認することをおすすめします。
固定資産税の負担:
農地の固定資産税は、一般的に宅地よりも大幅に低く設定されています。これは、農地が公益的な役割を果たしていることを考慮した税制優遇です。具体的な税額は、固定資産税評価額と税率(通常1.4%)によって決まります。
2-4. ステップ4: 土地改良区への連絡(該当する場合のみ)
土地改良区とは、農地の水利や排水を管理する組合です。すべての農地が土地改良区に加入しているわけではありませんが、加入している場合は相続後に連絡が必要です。
土地改良区の負担金:
土地改良区に加入している農地を相続すると、組合員として年間数千円〜数万円の負担金の支払い義務が発生します。負担金の額は地域や事業内容によって大きく異なります。
また、過去に実施した土地改良事業の負債が残っている場合、その償還金も相続人が引き継ぐことになります。この負債は、相続放棄をしない限り免れることができません。
確認方法:
土地改良区の有無と負担額は、以下の方法で確認できます:
- 市町村の農業委員会に問い合わせる
- 被相続人の通帳を確認(土地改良区の引き落としがあるか)
- 固定資産税の納税通知書を確認(土地改良区費用が記載されている場合がある)
重要: 土地改良区の負債は「隠れたコスト」として見落とされがちです。相続前に必ず確認しておくことを強く推奨します。高額な負債がある場合は、相続放棄も含めて慎重に検討してください。
3. 農業をしない相続人の4つの選択肢
親の農地を相続したものの、自分は会社員で農業をする予定がないという方も多いでしょう。そのような場合、以下の4つの選択肢があります。それぞれメリット・デメリットを理解し、最適な方法を選びましょう。
3-1. 選択肢の比較表
| 選択肢 | メリット | デメリット | 手続きの難易度 | 期間 | コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| 売却 | 現金化できる | 買い手が見つからない可能性 | 高(農地法第5条の許可が必要) | 6ヶ月〜1年 | 仲介手数料、譲渡所得税 |
| 貸出 | 賃料収入、管理不要 | 賃料は低い、契約トラブル | 中(農地法第3条の許可が必要) | 3ヶ月〜6ヶ月 | 契約書作成費用 |
| 転用 | 用途変更で売却しやすい | 農地区分によっては不許可 | 高(農地法第5条の許可が必要) | 6ヶ月〜1年 | 転用費用、許可申請費用 |
| 放置 | 手続き不要 | 固定資産税、土地改良区費用、管理費用が継続 | 低 | - | 年間数万円〜数十万円 |
それぞれの選択肢について、詳しく見ていきましょう。
3-2. 選択肢1: 売却する
農地を売却する場合、農地法第5条の許可が必要になることが一般的です。これは、農地を農地以外の用途(宅地、駐車場、太陽光発電など)に転用して売買する場合に必要な許可です。
農地法第5条の許可:
- 許可権者: 4ha以下は都道府県知事または指定市町村、4ha超は農林水産大臣
- 審査期間: 通常3-6ヶ月
- 許可基準: 農地区分による立地基準、転用目的の確実性、周辺農地への被害防除
農地区分と許可難易度:
農地は立地によって5つの区分に分類され、転用許可の難易度が異なります:
- 農用地区域内農地: 原則不許可(農業振興地域内で、農業上の利用を確保すべき農地)
- 甲種農地: 原則不許可(市街化調整区域内の良好な農地)
- 第1種農地: 原則不許可(10ha以上の規模の農地、農業公共投資対象農地など)
- 第2種農地: 他に代替すべき土地がない場合は許可(市街地として発展する見込みのある区域内の農地)
- 第3種農地: 許可されやすい(市街地区域内または市街地化の傾向が著しい区域内の農地)
相続した農地がどの区分に該当するかは、農業委員会に問い合わせれば確認できます。第3種農地であれば転用許可が得られやすく、売却もスムーズに進む可能性があります。
売却価格の相場:
農地の売買価格は、宅地の1/10〜1/50程度と大幅に低くなります:
- 耕作可能な農地: 数十万円〜数百万円/ha
- 転用可能な農地: 数百万円〜数千万円/ha
- 立地が悪い農地: 買い手が見つからない場合もあり
近年は、太陽光発電用地としての需要が一部で増加しています。特に日照条件が良く、電力網へのアクセスが容易な農地は、太陽光発電業者からの引き合いがある場合があります。
買い手の見つけ方:
- JA(農業協同組合): 地域の農業者とのネットワークが広く、農地のまま売却する場合に有効
- 不動産会社(農地専門): 農地の売買に特化した不動産会社。転用を前提とした売却に強い
- 太陽光発電業者: 太陽光発電用地としての転用を前提に買い取る業者
- 農地中間管理機構: 公的機関による農地の貸付・売却の仲介
売却時の注意点:
農地を売却する場合、以下の点に注意が必要です:
- 農地法第5条の許可を得ずに売買契約をしても無効になる
- 許可申請には費用(数万円〜数十万円)と時間(3-6ヶ月)がかかる
- 買い手が見つからず長期化する可能性がある
- 譲渡所得税が課税される(長期譲渡所得税率20.315%など)
3-3. 選択肢2: 貸出する
農地を農業者に貸し出すことで、管理の手間を省きながら賃料収入を得ることができます。ただし、農地の賃料は一般的に低く、年間数千円〜数万円/反(10a)程度です。
農地法第3条の許可が必要:
農地を農地のまま貸借する場合、農地法第3条の許可が必要です。譲受人(借主)が以下の要件を満たす必要があります:
- 農業従事者であること(年間150日以上農業に従事)
- 所有している農地と合わせて一定面積以上を耕作できること(都府県で50a、北海道で2ha)
- 農地を適正に利用すること
賃料の相場:
農地の賃料は地域によって大きく異なりますが、目安は以下の通りです:
- 水田: 年間5,000円〜15,000円/反(10a)
- 畑: 年間3,000円〜10,000円/反(10a)
賃料収入は低いですが、固定資産税や土地改良区費用をカバーできれば、管理の手間を省きながら農地を保有し続けることができます。
賃貸借契約のポイント:
農地の賃貸借契約では、以下の点を明確にしておきましょう:
- 契約期間: 通常5-10年
- 更新条件: 自動更新か、協議更新か
- 契約解除条件: 農業を廃止した場合、賃料未払いの場合など
- 原状回復義務: 契約終了時の農地の状態
農地中間管理機構の活用:
借主を自分で探すのが難しい場合、農地中間管理機構(農地バンク)を活用する方法もあります。これは、都道府県が設置する公的機関で、農地の貸付を仲介してくれます。賃料は市場価格よりも低くなることが多いですが、安定した借主を見つけやすいというメリットがあります。
3-4. 選択肢3: 転用する
農地を農地以外の用途に転用することで、売却しやすくなったり、新たな収益源を生み出すことができます。ただし、農地法第5条の許可が必要で、農地区分によっては許可が得られない場合もあります。
転用先の例:
- 宅地: 自己居住用、賃貸用、売却用に転用
- 駐車場: 月極駐車場、コインパーキング
- 太陽光発電用地: 固定価格買取制度(FIT)を利用した太陽光発電事業
- 資材置き場: 建設会社や運送会社への賃貸
転用の可否判定:
転用できるかどうかは、農地区分によって決まります:
- 農用地区域内農地、甲種農地、第1種農地: 原則不許可
- 第2種農地: 他に代替すべき土地がない場合は許可
- 第3種農地: 許可されやすい
第3種農地は市街地区域内または市街地化の傾向が著しい区域内の農地で、転用許可が得られやすいです。相続した農地の区分は、農業委員会に問い合わせれば確認できます。
転用費用:
農地を転用する場合、以下の費用がかかります:
- 許可申請費用: 数万円〜数十万円(行政書士に依頼する場合)
- 造成費用: 数十万円〜数百万円(用途による)
- 宅地: 数十万円〜数百万円(整地、上下水道工事など)
- 駐車場: 数十万円〜数百万円(舗装、ライン引きなど)
- 太陽光発電: 数百万円〜数千万円(太陽光パネル設置など)
転用のメリット・デメリット:
- メリット: 売却しやすくなる、用途に応じた収益を得られる
- デメリット: 許可が得られない場合がある、転用費用がかかる、農地の固定資産税優遇がなくなる
転用すると、農地としての固定資産税の優遇がなくなり、宅地並みの税額に上がる点に注意が必要です。
3-5. 選択肢4: 放置する(非推奨)
何も手続きをせずに農地を放置することも選択肢の一つですが、これは強く非推奨です。放置すると、以下のコストとリスクが継続します。
継続コスト:
- 固定資産税: 年間数千円〜数万円
- 土地改良区費用: 年間数千円〜数万円
- 管理費用: 年間数万円〜数十万円
- 草刈り: 年2-3回、1回1-3万円程度
- 獣害対策: 地域による
- 不法投棄対策: 監視、清掃など
放置のリスク:
- 耕作放棄地として問題視される: 農業委員会から利用意向調査が来る場合があります
- 近隣住民からの苦情: 雑草が生い茂り、害虫や害獣の温床になる
- 荒廃により売却困難に: 長期間放置すると土地が荒れ、売却価格が大幅に下がる
- 不法投棄の被害: 人目につかない農地は不法投棄の標的になりやすい
放置するくらいなら:
放置によるコストとリスクを考えると、以下の対策を取る方が賢明です:
- 農地中間管理機構に貸し出す(賃料は低いが管理不要)
- 隣地の農家に無償で管理してもらう
- 売却・転用を検討する
4. 不動産鑑定士が教える:農地評価の実務
農地を相続する際、相続税の申告が必要かどうかは相続財産の評価額によって決まります。ここでは、不動産鑑定士の視点から農地の相続税評価額の算定方法を解説します。
4-1. 農地の相続税評価額の算定方法
農地の相続税評価額は、原則として「倍率方式」で算定します。倍率方式とは、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出する方法です。
倍率方式の計算式:
相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率の確認方法:
倍率は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」で確認できます。農地の所在地(都道府県、市町村、町字)を入力すると、該当する倍率が表示されます。
計算例:
例えば、以下の条件で農地の相続税評価額を算定します:
- 固定資産税評価額: 100万円
- 倍率: 1.1
- 相続税評価額: 100万円 × 1.1 = 110万円
固定資産税評価額は、毎年送付される固定資産税の納税通知書に記載されています。納税通知書が手元にない場合は、市町村の税務課で固定資産評価証明書を取得すれば確認できます。
農地区分による評価方法の違い:
農地は、その立地や利用状況によって以下のように分類され、評価方法が異なります:
- 純農地: 倍率方式
- 中間農地: 倍率方式
- 市街地周辺農地: 市街地農地の評価額 × 80%
- 市街地農地: 宅地比準方式または倍率方式
多くの農地は「純農地」または「中間農地」に該当し、倍率方式で評価されます。市街地周辺や市街地内の農地については、宅地としての評価額を考慮した方法が適用されます。
詳しくは、当サイトの「不動産の相続税評価額:路線価方式と倍率方式の計算方法を徹底解説」をご覧ください。
4-2. 生産緑地の評価(都市部の農地)
都市部に農地を所有している場合、「生産緑地」に指定されている可能性があります。生産緑地は、三大都市圏の市街化区域内農地で、農業を継続することを条件に税制優遇を受けられる制度です。
生産緑地とは:
生産緑地制度は、市街化区域内の農地を計画的に保全し、良好な都市環境の形成を図るために設けられた制度です。生産緑地に指定されると、以下のメリットとデメリットがあります:
メリット:
- 固定資産税が農地課税(宅地課税の1/100程度)
- 相続税の納税猶予特例が利用できる
- 相続税評価額が低く抑えられる
デメリット:
- 30年間の営農義務(2022年改正で、10年ごとに延長可能に)
- 農地以外の用途に転用できない
- 売却・賃貸には制限がある
評価額の計算:
生産緑地の相続税評価額は、以下の2つの評価額のうち低い方が採用されます:
- 農地評価額: 倍率方式で算定
- 宅地比準評価額の5%: 宅地とみなして路線価方式で評価し、その5%
計算例:
例えば、以下の条件で生産緑地の相続税評価額を算定します:
- 農地評価額(倍率方式): 200万円
- 宅地比準評価額: 1億円
- 宅地比準評価額の5%: 500万円
この場合、農地評価額200万円の方が低いため、相続税評価額は200万円となります。
納税猶予特例との関係:
生産緑地で納税猶予特例を受ける場合、営農を継続する義務があります。営農を廃止すると、猶予されていた相続税と利子税が課税されます。サラリーマンなど農業をしない相続人にとっては、営農義務を果たすのが難しいため、納税猶予特例の利用は慎重に検討する必要があります。
2022年の生産緑地法改正:
2022年の改正により、生産緑地指定から30年経過後、10年ごとに延長できるようになりました。これにより、30年経過後に買取り申出を行い、生産緑地指定を解除することが可能になりました。解除後は、宅地として売却や転用ができるようになります。
4-3. 農地評価で注意すべき5つのポイント
農地の相続税評価額を算定する際、以下の5つのポイントに注意が必要です。
1. 農地区分の確認
農地は、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の4つに区分され、評価方法が異なります。相続した農地がどの区分に該当するかを、農業委員会や税理士に確認しましょう。
2. 倍率の確認
国税庁の「路線価図・評価倍率表」で、該当する農地の倍率を確認します。倍率は毎年更新されますので、相続発生年の倍率を使用してください。
3. 生産緑地の特例
都市部の農地は、生産緑地指定の有無を確認しましょう。生産緑地に指定されている場合、評価額が大幅に低くなる可能性があります。
4. 補正率の適用
農地が以下のような場合、補正率を適用して評価額を減額できる場合があります:
- 不整形地(形状が悪い)
- 間口狭小(間口が狭い)
- 奥行長大(奥行が長すぎる)
- がけ地(傾斜がある)
補正率の適用には専門的な知識が必要ですので、不動産鑑定士や税理士に相談することをおすすめします。
5. 納税猶予の適用可否
納税猶予特例を利用すると、相続税の一部が猶予されます。ただし、農業継続が条件のため、サラリーマン相続人は基本的に利用できません。納税猶予を受けるかどうかは、将来の営農計画を慎重に検討してから判断しましょう。
5. 相続税の納税猶予特例
農地を相続した場合、一定要件を満たせば相続税の納税猶予特例を受けられます。ただし、この特例は農業を継続することが条件ですので、サラリーマンなど農業をしない相続人は慎重に検討する必要があります。
5-1. 納税猶予特例とは
制度概要:
農地の相続税納税猶予特例(農地等についての相続税の納税猶予の特例)は、農地を相続した場合に、一定要件を満たせば相続税の一部が猶予され、相続人の死亡時に免除される制度です。
猶予額:
農地の相続税評価額と農業投資価格(農地の収益性に基づく価格)との差額に対応する相続税額が猶予されます。実質的に、農地部分の相続税の大部分が猶予されることになります。
猶予から免除までの流れ:
- 相続税申告時に納税猶予の適用を受ける
- 農業を継続する(営農義務)
- 20年間農業を継続すれば猶予額が免除される
- または、相続人の死亡時に猶予額が免除される
詳しくは、国税庁の「相続税の納税猶予(国税庁タックスアンサーNo.4147)」をご確認ください。
5-2. 適用要件
納税猶予特例を受けるには、以下の要件を満たす必要があります:
1. 被相続人が農業を営んでいたこと
亡くなった方(被相続人)が、農業を営んでいたことが条件です。具体的には、農地で実際に農業を行い、農産物を生産していたことが必要です。
2. 相続人が農業を継続すること
相続人が、相続後も引き続き農業を継続することが条件です。具体的には、年間150日以上農業に従事することが求められます。サラリーマンとして働きながら週末だけ農業をする、という程度では要件を満たすのが困難です。
3. 農業委員会の証明書を取得すること
納税猶予の適用を受けるには、農業委員会から「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」を取得する必要があります。この証明書は、被相続人が農業を営んでいたこと、相続人が農業を継続する意思があることを証明するものです。
4. 相続税申告期限までに申請すること
納税猶予の適用を受けるには、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに申請する必要があります。申告期限を過ぎると適用を受けられませんので、注意が必要です。
5-3. サラリーマン相続人は使えるか?
結論: 農業継続が条件のため、基本的に使えない
サラリーマンなど農業をしない相続人にとって、納税猶予特例の利用は現実的ではありません。その理由は以下の通りです:
注意点:
農業を廃止すると猶予税額+利子税が課税される
納税猶予を受けた後に農業を廃止すると、猶予されていた相続税と利子税が一括して課税されます。利子税は年3.6%(2024年時点)で、長期間経過すると高額になる可能性があります。
20年間農業を継続すれば猶予額が免除される
20年間農業を継続すれば猶予額が免除されますが、サラリーマンが20年間も年間150日以上農業に従事するのは現実的ではありません。
サラリーマンが週末農業で要件を満たすのは困難
週末だけ農業をする「週末農業」では、年間150日以上という要件を満たすのが困難です。また、農業委員会の証明書を取得する際に、実際に農業を継続できるかどうかを審査されます。
対策:
農業を継続する意思がない場合、納税猶予は利用しないことをおすすめします。代わりに、以下の対策を検討してください:
- 売却: 相続税の納税資金を確保するため、農地を売却する
- 貸出: 農地を農業者に貸し出し、賃料収入を得る
- 転用: 農地を転用して売却しやすくする
相続税の申告については、税理士に相談し、納税猶予を利用しない場合の税額を試算してもらうことをおすすめします。基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超えない場合は、そもそも相続税が課税されないため、納税猶予を検討する必要はありません。
相続税の基礎控除については、当サイトの「相続税はいくらから課税される?基礎控除・申告期限・必要書類を徹底解説」をご覧ください。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 農地だけ相続放棄できますか?
A: できません。相続放棄は相続財産全体に対して行うもので、特定の財産(農地だけ)を放棄することはできません。
相続放棄は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。相続放棄をすると、プラスの財産(預貯金、不動産など)もマイナスの財産(借金など)もすべて放棄することになります。
農地を相続したくない場合は、以下の選択肢があります:
- 相続放棄: 相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述
- 相続後に売却: 相続後に農地を売却し、現金化する
- 相続後に貸出: 相続後に農地を農業者に貸し出す
相続放棄を検討する場合は、他の相続財産(預貯金、不動産など)とのバランスを考え、専門家(弁護士、司法書士)に相談することをおすすめします。
Q2. 農業委員会の許可が下りない場合はどうすればいい?
A: 農地法第5条の許可が下りない場合、以下の対策があります:
農地区分を確認し、転用しやすい第3種農地かどうか確認
農地区分によって許可難易度が大きく異なります。第3種農地であれば転用許可が得られやすいですが、農用地区域内農地や第1種農地は原則不許可です。農業委員会に農地区分を確認しましょう。
転用目的を変更(例: 宅地→駐車場)
転用目的によって許可基準が異なります。宅地転用が不許可でも、駐車場や資材置き場なら許可される場合があります。農業委員会に相談し、許可されやすい転用目的を検討しましょう。
農地のまま貸出(第3条の許可)を検討
転用を伴う売却(第5条)が難しい場合、農地のまま貸出(第3条)を検討しましょう。第3条の許可は、譲受人が農業従事者であれば比較的得られやすいです。
専門家(行政書士、司法書士)に相談
農地法の許可申請は複雑で、専門的な知識が必要です。許可が下りない場合は、農地法に詳しい行政書士や司法書士に相談することをおすすめします。
Q3. 土地改良区の負債は誰が払う?
A: 相続人が支払います。土地改良区の負債は土地に付随する義務であり、相続人が組合員として引き継ぎます。
土地改良区の負債とは:
土地改良区は、農地の水利や排水を管理する組合で、過去に実施した土地改良事業(ダム建設、用水路整備など)の負債を組合員で分担して償還しています。この負債は、土地に付随する義務として相続人が引き継ぐことになります。
負担額の目安:
年間数千円〜数万円の負担金が発生します。地域や事業内容によって大きく異なりますので、相続前に土地改良区の有無と負担額を確認することを強く推奨します。
確認方法:
- 市町村の農業委員会に問い合わせる
- 被相続人の通帳を確認(土地改良区の引き落としがあるか)
- 固定資産税の納税通知書を確認(土地改良区費用が記載されている場合がある)
対策:
高額な負債がある場合は、以下の対策を検討してください:
- 相続放棄(相続開始を知った日から3ヶ月以内)
- 農地を早期に売却し、負債から解放される
- 土地改良区に負債の分割払いや減免を相談する
Q4. 相続後10ヶ月以内の届出を忘れたらどうなる?
A: 農業委員会への届出は義務ですが、罰則はありません。ただし、届出をしないと農業委員会が農地の状況を把握できず、将来的な売却・貸出の手続きに支障が出る可能性があります。
届出を忘れた場合の対応:
気付いた時点で速やかに届出を行ってください。農業委員会に事情を説明すれば、期限を過ぎていても受理してもらえます。
届出をしないデメリット:
- 農業委員会が農地の所有者を把握できない
- 将来的な売却・貸出の許可申請時に、届出がないことが判明し、手続きが遅れる
- 耕作放棄地として問題視される可能性がある
届出は無料で簡単にできますので、必ず行いましょう。
Q5. 農地の売却価格はどのくらい?
A: 農地の売買価格は宅地の1/10〜1/50程度です。立地や用途によって大きく異なり、以下の相場があります:
売却価格の目安:
- 耕作可能な農地: 数十万円〜数百万円/ha
- 転用可能な農地: 数百万円〜数千万円/ha
- 立地が悪い農地: 買い手が見つからない場合もあり
価格に影響する要因:
- 立地: 市街地に近い農地は高く、山間部の農地は低い
- 農地区分: 第3種農地(転用しやすい)は高く、農用地区域内農地は低い
- 用途: 太陽光発電用地としての需要がある場合は高い
- 面積: 広い農地は売却しやすいが、狭小農地は買い手がつきにくい
買い手を見つける方法:
- JA(農業協同組合)
- 不動産会社(農地専門)
- 太陽光発電業者
- 農地中間管理機構
買い手を見つけるのが難しい場合は、複数の業者に相談することをおすすめします。
Q6. 農業をしないサラリーマンでも相続できる?
A: できます。相続自体は農業従事者でなくても可能です。ただし、相続後に農業を継続しない場合、以下の点に注意が必要です:
注意点:
- 納税猶予特例は利用できない: 納税猶予は農業継続が条件のため、サラリーマン相続人は基本的に利用できません
- 売却・貸出・転用のいずれかを選択する必要がある: 放置すると固定資産税、土地改良区費用、管理費用が継続します
- 農業委員会への届出は必要: 相続後10ヶ月以内に届出を行う必要があります
おすすめの対応:
- 相続登記と農業委員会への届出を速やかに行う
- 売却・貸出・転用のいずれかを検討する
- 専門家(司法書士、税理士、行政書士)に相談する
農業をしないサラリーマンでも相続できますが、相続後の対応を早めに検討することが重要です。
Q7. 農地を相続したが管理できない場合は?
A: 以下の対策があります:
1. 売却
農地法第5条の許可を取得して売却します(転用を伴う場合)。買い手を見つけるには、JA、不動産会社(農地専門)、太陽光発電業者などに相談してください。
2. 貸出
JA、農業委員会、不動産会社に相談して借り手を探します。農地中間管理機構(農地バンク)に貸し出すことも検討しましょう。賃料は低いですが、管理の手間が省けます。
3. 転用
宅地、駐車場、太陽光発電用地などに転用します。農地法第5条の許可が必要で、農地区分によっては許可が得られない場合もあります。
4. 農地バンク
市町村の農地中間管理機構に貸し出します。賃料は市場価格よりも低くなりますが、安定した借主を見つけやすいというメリットがあります。
放置は非推奨:
放置すると固定資産税、土地改良区費用、管理費用が継続し、年間数万円〜数十万円のコストがかかります。また、耕作放棄地として問題視されたり、近隣住民からの苦情が来る可能性もあります。
管理できない場合は、早めに売却・貸出を検討することをおすすめします。
7. まとめ
農地相続は一般の不動産相続とは異なる特別な手続きが必要ですが、ポイントを押さえれば問題なく進められます。
本記事の要点:
- 相続後10ヶ月以内に農業委員会へ届出: 罰則はないが、届出を怠ると将来的な手続きに支障
- 農地法第3条と第5条の違いを理解: 農地のままか、転用を伴うかで必要な許可が異なる
- 選択肢は4つ: 売却、貸出、転用、放置(放置は非推奨)
- 納税猶予特例は農業継続が条件: サラリーマン相続人は基本的に使えない
- 隠れたコストを確認: 土地改良区の負債、固定資産税、管理費用
次のアクション:
- 相続前: 農地の所在地、面積、農地区分、土地改良区の有無を確認
- 相続後: 速やかに相続登記と農業委員会への届出を行う
- 売却・貸出を検討する場合: JA、不動産会社、太陽光発電業者に相談
- 複雑なケースは専門家に相談: 司法書士、税理士、行政書士
農地相続は複雑ですが、本記事の内容を参考に、計画的に進めていただければ幸いです。
専門家への相談をおすすめするケース
以下のような場合は、専門家に相談することをおすすめします:
- 農地の相続税評価額が基礎控除を超える可能性がある場合
- 農業委員会の許可が下りない場合
- 遺産分割で相続人間に意見の相違がある場合
- 生産緑地の納税猶予を検討している場合
- 土地改良区の負債が高額で対応に困っている場合
相続に関する無料相談も受け付けております。お気軽にお問い合わせください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談・税務相談ではありません。農地相続に関する具体的な判断や手続きについては、専門家にご相談ください。
また、法改正により内容が変更される可能性があります。最新の情報は農林水産省・国税庁・法務省などの公式サイトでご確認ください。

北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


