相続人調査の方法|戸籍謄本の集め方と法定相続人の確定手順

この記事の結論
相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、法定相続人を確定する手続きです。2024年4月から相続登記が義務化され、不動産・銀行・証券会社の手続きで必須です。令和6年3月開始の戸籍広域交付制度により、従来1〜2ヶ月かかった戸籍収集が1日で完了します。戸籍の集め方、法定相続情報証明制度の活用法、専門家依頼の判断基準を実務視点から解説します。
1. 相続人調査とは:なぜ戸籍収集が必要なのか
1-1. 相続人調査の法的根拠
相続人調査は、被相続人が亡くなった時点で誰が相続権を持つのかを法的に確定させる手続きです。民法第887条から第890条で法定相続人の範囲が定められており、遺産分割協議や相続登記を行う際には全員を特定する必要があります。
相続人調査を行わないと、知らない相続人が後から判明し協議のやり直しが必要になったり、不動産登記・銀行手続き・相続税申告ができない問題が発生します。
相続人の範囲や順位の詳細は、法定相続人の範囲と順位をご覧ください。
1-2. 相続登記義務化と期限(3年以内)
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請しなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人全員の現在戸籍が必須です。相続登記の詳細は、実家の相続:名義変更の手続きと費用をご覧ください。
1-3. 銀行・証券会社の手続きでも必須
銀行や証券会社で預貯金・有価証券を相続する際も、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の現在戸籍、遺産分割協議書が必要です。
複数の金融機関がある場合、後述の「法定相続情報証明制度」を活用すれば、戸籍の束を何度も提出する手間を省けます。詳細は預貯金の相続手続きと銀行口座凍結の対処法をご覧ください。
2. 相続人調査の全体の流れ:3ステップで理解する
2-1. ステップ1: 被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取得します。戸籍は出生時、婚姻時、転籍時、戸籍法改正時に新しく作られるため、複数の戸籍を取得する必要があります。
例:3回転籍、1回婚姻、2回の戸籍法改正を経験 = 合計7つ程度の戸籍
2-2. ステップ2: 相続人全員の現在戸籍を取得
被相続人の戸籍から相続人が確定したら、相続人全員の現在戸籍を取得します。配偶者、子全員、直系尊属(子がいない場合)、兄弟姉妹(子も直系尊属もいない場合)の戸籍が必要です。
2-3. ステップ3: 法定相続情報証明を取得(推奨)
法務局で「法定相続情報一覧図」の認証を受けることをおすすめします。戸籍謄本の内容を1枚の書面にまとめたもので、複数の金融機関や法務局での手続きを同時並行で進められます。詳しくは後述の「7. 法定相続情報証明制度の活用」で解説します。
3. 集めるべき戸籍書類の種類と役割
3-1. 戸籍謄本と戸籍抄本の違い
戸籍謄本:戸籍に記載されている全員の情報が記載された書類。相続手続きでは原則として戸籍謄本が必要です。
戸籍抄本:一部の方のみの情報を抜粋した書類。相続手続きでは、迷ったら戸籍謄本を取得しておくのが安全です。
3-2. 改製原戸籍(かいせいげんこせき)とは
戸籍法の改正により様式が変わる前の古い戸籍です。新しい様式に書き換える際、除籍された人の情報は引き継がれないため、出生から死亡までを追う際には改製原戸籍も必ず取得します。
主な改製:昭和32年改製、平成6年コンピュータ化改製
3-3. 除籍謄本とは
戸籍に記載されていた全員が除籍(婚姻・死亡・転籍など)された後の戸籍です。被相続人が亡くなった時点で、その戸籍に被相続人しか記載されていなかった場合、死亡届により除籍謄本となります。
3-4. 戸籍の附票(住所履歴の確認)
戸籍に記載されている方の住所履歴を記録したものです。相続登記では、被相続人が登記簿上の所有者と同一人物であることを証明するために、戸籍の附票または住民票の除票が必要になります。
4. 戸籍謄本の請求方法:窓口・郵送・コンビニ
4-1. 窓口請求(本籍地の市区町村役場)
本籍地の市区町村役場の窓口で請求できます。本人、配偶者、直系尊属・直系卑属が請求可能です。
手数料:戸籍謄本450円、除籍謄本・改製原戸籍750円、戸籍の附票300円
窓口であれば即日発行されます。
4-2. 郵送請求(定額小為替で手数料支払い)
本籍地が遠方の場合、郵送で請求できます。請求書、本人確認書類のコピー、手数料(定額小為替)、返信用封筒を送付します。
定額小為替は郵便局で購入(1枚につき200円の発行手数料)。所要日数は往復で1〜2週間です。
4-3. コンビニ交付(マイナンバーカード利用)
マイナンバーカードがあれば、コンビニのマルチコピー機で取得できます。6:30〜23:00まで利用可能で、窓口より50〜100円程度安い場合があります。
ただし、対応市区町村が限られ、除籍謄本・改製原戸籍は取得できません。
4-4. 必要な書類と費用
標準的なケース(転籍2回):合計約4,500円 複雑なケース(転籍5回):合計約8,100円
これに郵送請求の場合は定額小為替の発行手数料と郵送料が加算されます。
5. 【2024年最新】戸籍広域交付制度の活用法
5-1. 戸籍広域交付制度とは(令和6年3月1日開始)
令和6年3月1日開始の新制度です。全国どこの市区町村窓口でも、複数の本籍地の戸籍謄本をまとめて取得できます。法務省の戸籍情報連携システムにより、各市区町村の戸籍情報がネットワークで結ばれています。
5-2. 従来との違い:1カ所で複数の本籍地の戸籍を取得
従来:本籍地A市 → B市に郵送請求 → C市に郵送請求 = 1〜2ヶ月
戸籍広域交付制度:最寄りの窓口で本籍地A市、B市、C市の戸籍をまとめて請求 = 1日(即日交付)
5-3. 利用条件と注意点
利用条件:本人または配偶者、直系尊属・直系卑属が窓口で請求(郵送・コンビニ不可)
取得できる戸籍:戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 取得できない戸籍:戸籍抄本、コンピュータ化されていない一部の戸籍、戸籍の附票
注意点:代理人請求不可、兄弟姉妹の戸籍は請求不可(直系のみ)
5-4. 実際の利用手順
- 事前準備:被相続人の本籍地、生年月日、死亡年月日、続柄を整理。本籍地不明なら住民票の除票で確認
- 窓口で請求:最寄りの市区町村役場で「戸籍広域交付制度を利用したい」と伝える
- 請求書の記入:分かる範囲を記入(不明でも職員がシステムで検索)
- 交付:即日交付(待ち時間30分〜1時間程度)
- 確認:出生から死亡まで連続しているか確認
6. 出生から死亡までの戸籍をたどる方法
6-1. 最後の本籍地から順に遡る
死亡時の本籍地から順に遡ります。各戸籍に記載された「従前の本籍」を手がかりに、出生時の戸籍まで取得します。
6-2. 転籍・婚姻・改製による戸籍の変遷
転籍:本籍地を移動。「転籍」記載があれば従前の本籍地で転籍前の戸籍を取得 婚姻:夫婦の新戸籍を編製。「婚姻」記載があれば婚姻前の親の戸籍を取得 改製:戸籍法改正による様式変更。「改製」記載があれば改製原戸籍を取得
6-3. 古い戸籍の読み方(手書き・旧字体)
昭和時代の戸籍は手書きで読みづらい場合があります。
対処法:窓口の職員に読み方を聞く、同じ文字と比較、スマホで拡大
旧字体の例:「齋藤」→「斎藤」、「邊」→「辺」、「龍」→「竜」、「國」→「国」
6-4. つまずきやすいポイントと解決策
戸籍が途切れている:婚姻・転籍・改製の記載を確認。戸籍の附票で住所履歴を確認。戸籍広域交付制度の窓口で職員に相談
認知した子の存在:「認知」記載があれば、認知した子も相続人。母親の本籍地で戸籍を請求
養子縁組の記載:実親と養親の両方の戸籍を確認
海外で出生・死亡:日本国籍があれば日本の戸籍に記載。大使館・領事館の証明書も取得推奨
7. 法定相続情報証明制度の活用
7-1. 法定相続情報証明制度とは
平成29年5月開始の制度です。法務局に戸籍謄本の束と法定相続情報一覧図を提出すると、認証文付きの一覧図を発行してくれます。この一覧図は、相続登記、銀行・証券会社の相続手続き、相続税申告、年金手続きで使用できます。
7-2. メリット:戸籍の束を何度も提出不要
従来の方法:法務局 → 銀行A → 銀行B(順番に提出)= 合計1.5〜2ヶ月
法定相続情報証明制度:認証済み一覧図を複数通取得(無料) → 各機関に同時提出 = 合計2〜3週間
複数の金融機関がある場合、処理時間を大幅に短縮できます。
7-3. デメリット:最初の法務局申請に時間がかかる
一覧図を自分で作成する必要があり、法務局の審査に1〜2週間かかります。相続手続きが不動産登記のみの場合や金融機関が1カ所のみの場合は不要です。
複数の金融機関や不動産がある場合は利用をおすすめします。
7-4. どの手続きで使えるか
使える手続き:法務局(相続登記)、税務署(相続税申告)、年金事務所、銀行・信用金庫、証券会社、生命保険会社
注意点:金融機関独自の書類は別途必要。一部の金融機関では戸籍謄本の原本も要求される場合があるため、事前確認が必要です。
8. 相続人調査で発覚しやすいトラブルと対処法
8-1. 認知した子が判明した場合
被相続人の戸籍に「認知」の記載があれば、認知された子も相続人です。認知された子の現在戸籍を取得し、遺産分割協議に参加してもらいます。連絡先不明なら戸籍の附票で住所を確認します。
注意点:認知された子は嫡出子と同等の相続分を持ちます。除外した遺産分割協議は無効です。
8-2. 行方不明の相続人がいる場合
戸籍の附票で最後の住所を確認し手紙を送ります。連絡が取れない場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人選任の申立て」を行います。7年以上生死不明なら「失踪宣告の申立て」も可能です。
8-3. 海外在住の相続人がいる場合
印鑑証明書の代わりに、在外公館発行の「署名証明書」または現地公証人発行の「サイン証明書」(アポスティーユ付き)を用意します。遺産分割協議書には実印の代わりに署名します。
海外とのやり取りには時間がかかるため、早めに連絡を取りましょう。
8-4. 相続人が認知症・未成年の場合
認知症:家庭裁判所に「成年後見人選任の申立て」を行い、成年後見人が代わりに遺産分割協議に参加
未成年:親権者が代理。ただし親権者自身も相続人なら利益相反となるため、家庭裁判所に「特別代理人選任の申立て」が必要
遺産分割協議の詳細は、遺産分割協議書の書き方と注意点をご覧ください。
9. 専門家に依頼する場合の費用目安
9-1. 司法書士への依頼費用(3万円〜10万円)
戸籍収集のみ:5万円〜8万円程度(基本料金3〜5万円 + 戸籍の通数加算1,000〜2,000円/通 + 実費)
相続登記とセット:10万円〜20万円程度(相続登記報酬5〜8万円 + 戸籍収集報酬2〜4万円 + 登録免許税)
司法書士に依頼すれば、戸籍の収集から相続登記までワンストップで対応してもらえます。
9-2. 自分でやる vs 専門家依頼の判断基準
自分でやる方が向いているケース:転籍2回以内、本籍地が近い、戸籍広域交付制度を利用できる、時間に余裕がある、費用を抑えたい
専門家に依頼した方が良いケース:転籍3回以上、本籍地が遠方で複数、相続人が多く複雑、古い戸籍が読めない、相続登記も依頼したい、時間がない、相続税申告期限(10ヶ月)が迫っている
相続税申告については、相続税申告の期限と手続きの流れをご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 戸籍謄本は何通必要ですか?
被相続人の出生から死亡までの戸籍は、転籍や改製の回数により5〜10通程度。相続人の現在戸籍は相続人の人数分必要です。
Q2. 戸籍広域交付制度は郵送でも使えますか?
いいえ、窓口請求のみです。郵送・コンビニ交付・代理人請求は不可です。
Q3. 本籍地が分からない場合は?
被相続人の最後の住所地の市区町村で「本籍地記載ありの住民票の除票」を取得すれば、最後の本籍地が分かります。
Q4. 戸籍収集にどれくらい時間がかかりますか?
戸籍広域交付制度なら1日、郵送請求なら1カ所あたり1〜2週間、複数の本籍地で1〜2ヶ月です。
Q5. 法定相続情報証明制度は必須ですか?
複数の金融機関で手続きがある場合は利用推奨。手続きが1カ所のみなら不要です。
Q6. 相続人が戸籍を出してくれない場合は?
相続人であれば、自分で被相続人の戸籍を請求できます。
Q7. 認知した子が見つかった場合は?
認知された子を除外した遺産分割協議は無効です。協議のやり直しが必要です。
Q8. 相続放棄でも戸籍は必要ですか?
はい、家庭裁判所に提出する書類として、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本と、相続放棄する人の現在戸籍が必要です。
Q9. 戸籍の有効期限はありますか?
相続手続きにおいて戸籍謄本に有効期限はありません。ただし、金融機関によっては「発行から3ヶ月以内」などの独自ルールがあるため、事前確認が必要です。
Q10. 戸籍に住所が記載されていない場合は?
戸籍には住所は記載されません。相続登記で住所が必要な場合は、住民票の除票または戸籍の附票を取得します。
まとめ
相続人調査は、戸籍謄本の収集により法定相続人を確定させる重要な手続きです。2024年4月の相続登記義務化、令和6年3月の戸籍広域交付制度開始により、手続きの効率性が大きく向上しました。
戸籍広域交付制度により従来1〜2ヶ月かかった戸籍収集が1日で完了します。法定相続情報証明制度を活用すれば、複数の金融機関での手続きを並行処理できます。相続登記は3年以内が義務のため、戸籍収集は早めに着手しましょう。転籍3回以上、本籍地が遠方、期限が迫っている場合は、司法書士などの専門家への依頼を検討してください。

北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


