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遺言書の書き方完全ガイド:自筆vs公正証書【ひな形付】

遺言書の書き方完全ガイド:自筆vs公正証書【ひな形付】
公開: 2025-11-06

この記事の結論

遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があり、それぞれ費用、手間、確実性が大きく異なります。自筆証書遺言は費用0円で手軽に作成できますが、形式ミスで無効になるリスクがあります。一方、公正証書遺言は費用がかかりますが、法的に確実で紛失の心配もありません。2020年7月から始まった法務局の自筆証書遺言保管制度により、自筆証書遺言でも紛失リスクを回避できるようになりました。不動産を含む相続では、財産の特定方法や評価額を明記することが重要です。

遺言書とは?法的効力と種類

遺言書の法的効力

遺言書は、亡くなった後に自分の財産をどう分けるかを指定する法的文書です。民法第960条以降で詳しく規定されており、正しく作成すれば法定相続分よりも優先されます。

遺言書がない場合、遺産は法定相続分に従って分けられますが、遺言書があれば「長男に実家を、次男に預金を」といった具体的な指定が可能です。

遺言書の3つの種類

民法で認められている遺言書は主に3種類です。

1. 自筆証書遺言

全文を自分で手書きする遺言書です。

  • 費用: 0円(保管制度利用時は3,900円)
  • 証人: 不要
  • メリット: いつでも手軽に作成できる
  • デメリット: 形式ミスで無効になるリスク

2. 公正証書遺言

公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。

  • 費用: 5万円〜10万円程度(財産額による)
  • 証人: 2名必要
  • メリット: 法的に確実、原本が公証役場に保管される
  • デメリット: 費用と手間がかかる

3. 秘密証書遺言

内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書です。実務ではほとんど使われないため、この記事では自筆証書遺言と公正証書遺言に絞って解説します。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言の5つの要件

自筆証書遺言が有効と認められるには、以下の5つの要件を満たす必要があります。

  1. 全文を自分で手書き(財産目録を除く)
  2. 作成日を明記(例: 令和7年11月3日)
  3. 氏名を自署
  4. 押印(実印でなくても可、認印でOK)
  5. 財産目録は別紙でもOK(2019年改正)

財産目録はパソコン作成が可能(2019年改正)

2019年1月13日の民法改正により、財産目録はパソコンで作成できるようになりました。

改正前: すべて手書き必須 改正後: 本文は手書き必須だが、財産目録はパソコン・ワープロでOK

ただし、財産目録の各ページに署名・押印が必要です。

財産目録の例(パソコン作成可):

財産目録

1. 不動産
   所在: 東京都世田谷区○○1丁目2番3号
   家屋番号: 1番の2
   種類: 居宅
   構造: 木造2階建
   床面積: 1階 50.00㎡、2階 45.00㎡

2. 預貯金
   ○○銀行 ○○支店 普通預金
   口座番号: 1234567
   名義: 田中太郎

自筆証書遺言のひな形

以下は自筆証書遺言の基本的なひな形です。

遺言書

私、田中太郎は、次のとおり遺言する。

1. 次の不動産を妻・田中花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。
   所在: 東京都世田谷区○○1丁目2番3号
   家屋番号: 1番の2

2. 次の預貯金を長男・田中一郎(平成○年○月○日生)に相続させる。
   ○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号1234567

3. この遺言の遺言執行者として、妻・田中花子を指定する。

令和7年11月3日
東京都世田谷区○○1丁目2番3号
田中太郎   印

重要なポイント:

  • 日付は「令和7年11月吉日」のような曖昧な表現は不可
  • 「相続させる」という表現が明確
  • 遺言執行者を指定すると手続きがスムーズ

自筆証書遺言で無効になる10のケース

実務でよく見られる無効事例を紹介します。

  1. 日付がない、または曖昧(「令和7年11月吉日」は無効)
  2. 本文が手書きでない(パソコン打ちは無効)
  3. 押印がない
  4. 署名がない
  5. 他人が代筆した
  6. 財産目録に署名・押印がない(2019年改正後)
  7. 訂正方法が不適切(訂正印や訂正箇所の明記が必要)
  8. 複数人で作成した(夫婦連名は無効)
  9. 遺言能力がない状態で作成(認知症が進行した状態など)
  10. 財産の特定が不十分(「自宅を相続させる」では不十分、地番・家屋番号が必要)

法務局の自筆証書遺言保管制度(2020年施行)

2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が始まりました。

メリット:

  • 紛失・改ざんの心配がない
  • 相続開始後の検認手続きが不要
  • 全国どこの法務局でも遺言書の有無を検索できる
  • 費用は1件3,900円(公正証書遺言より安い)

手続きの流れ:

  1. 法務局のホームページで予約
  2. 自筆証書遺言を作成
  3. 予約日に本人が法務局へ持参(郵送不可)
  4. 保管証を受け取る

注意点:

  • 本人が法務局に出向く必要がある(代理不可)
  • 封筒に入れずに提出
  • 法務局では内容の有効性は審査しない(形式のみチェック)

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言のメリット・デメリット

メリット:

  • 公証人が作成するため、形式ミスがない
  • 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんの心配がない
  • 検認手続きが不要(相続開始後すぐに執行可能)
  • 遺言能力に疑義が生じにくい

デメリット:

  • 費用がかかる(5万円〜10万円以上)
  • 証人2名が必要
  • 公証役場に行く手間がかかる(出張も可能だが追加費用)

公正証書遺言の費用

公正証書遺言の作成費用は、相続させる財産の価額によって変わります。

財産の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超〜200万円以下 7,000円
200万円超〜500万円以下 11,000円
500万円超〜1,000万円以下 17,000円
1,000万円超〜3,000万円以下 23,000円
3,000万円超〜5,000万円以下 29,000円
5,000万円超〜1億円以下 43,000円
1億円超〜3億円以下 43,000円 + 5,000万円ごとに13,000円加算

: 実家(評価額3,000万円)を妻に、預金(1,000万円)を長男に相続させる場合

  • 実家: 23,000円
  • 預金: 17,000円
  • 合計: 40,000円

これに証書作成の基本手数料11,000円が加算され、合計51,000円となります。

公正証書遺言の作成手順

1. 必要書類を準備

  • 遺言者の印鑑登録証明書
  • 遺言者と相続人の関係がわかる戸籍謄本
  • 不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書
  • 預金通帳のコピー、証券口座の残高証明書

2. 証人2名を確保

証人になれない人:

  • 未成年者
  • 推定相続人(相続する予定の人)
  • 受遺者(遺言で財産をもらう人)

実務では、司法書士や行政書士に証人を依頼するケースが多いです(1名につき1万円程度)。

3. 公証役場に連絡・予約

最寄りの公証役場に電話で連絡し、遺言書の内容を相談します。公証人が事前に文案を作成してくれます。

4. 公証役場で作成

予約日に遺言者・証人2名・公証人が同席し、公証人が遺言書を読み上げます。遺言者と証人が署名・押印して完成です。

5. 正本・謄本を受け取る

原本は公証役場に保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。

自筆証書遺言 vs 公正証書遺言:どちらを選ぶべきか

比較表

項目 自筆証書遺言 自筆証書遺言
(法務局保管)
公正証書遺言
費用 0円 3,900円 5万円〜10万円
証人 不要 不要 2名必要
作成の手間 自宅で作成可 法務局に持参 公証役場で作成
無効リスク 高い 高い ほぼない
紛失リスク 高い なし なし
検認 必要 不要 不要
秘密性 高い 高い 低い(証人に内容が知られる)

ケース別の推奨

自筆証書遺言(法務局保管)がおすすめ:

  • 財産が比較的シンプル(不動産1つ、預金数口座程度)
  • 費用を抑えたい
  • 内容を完全に秘密にしたい

公正証書遺言がおすすめ:

  • 財産が複雑(不動産複数、株式、非上場株式など)
  • 相続人間で争いが予想される
  • 遺言能力に疑義を持たれる可能性がある(高齢、病気など)
  • 絶対に無効にしたくない

不動産を含む相続での遺言書のポイント

不動産の特定方法

遺言書で不動産を相続させる場合、「自宅を相続させる」といった曖昧な表現では不十分です。登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されている内容を正確に記載する必要があります。

必要な情報:

  • 所在(地番まで)
  • 地目(宅地、田、畑など)
  • 地積(面積)
  • 家屋番号
  • 種類(居宅、店舗など)
  • 構造(木造、鉄筋コンクリート造など)
  • 床面積

記載例:

次の不動産を妻・田中花子に相続させる。

土地
所在: 東京都世田谷区○○一丁目
地番: 2番3
地目: 宅地
地積: 150.00平方メートル

建物
所在: 東京都世田谷区○○一丁目2番地3
家屋番号: 2番の3
種類: 居宅
構造: 木造2階建
床面積: 1階 50.00平方メートル
       2階 45.00平方メートル

評価額と相続税の記載は不要

遺言書に不動産の評価額を記載する必要はありません。相続税の計算は相続開始時点の評価額で行われるため、遺言書作成時の評価額を書いても意味がありません。

ただし、代償分割(不動産を特定の相続人に渡し、他の相続人に金銭を支払う)を指定する場合は、代償金の額を明記する必要があります。

代償分割の記載例:

1. 上記不動産を長男・田中一郎に相続させる。
2. 長男・田中一郎は、次男・田中二郎に対し、代償金として金1,000万円を支払う。

共有はなるべく避ける

不動産を複数の相続人で共有すると、後々トラブルになりやすいため、可能な限り単独所有にすることをおすすめします。

トラブル例:

  • 売却時に全員の同意が必要
  • 管理費用の負担割合で揉める
  • 次世代の相続でさらに共有者が増える

やむを得ず共有にする場合は、持分割合を明確に記載します。

上記不動産を長男・田中一郎と次男・田中二郎に、各2分の1の割合で相続させる。

農地・山林の注意点

農地を相続させる場合、農業委員会への届出が必要です。遺言書には「農地法の許可を条件として」といった記載は不要ですが、相続人が農業従事者でない場合は、売却や転用の可能性も考慮しておく必要があります。

山林の場合も、所在地・地番を正確に記載します。山林は境界が不明確なケースが多いため、事前に測量しておくことをおすすめします。

遺言書作成後の注意点

保管場所

自筆証書遺言の場合:

  • 法務局保管制度を利用する(推奨)
  • 自宅で保管する場合は、貸金庫や金庫に入れる
  • 相続人の1人だけに預けるのは避ける(隠匿・破棄のリスク)

公正証書遺言の場合:

  • 原本は公証役場に保管される
  • 正本と謄本を自宅で保管

遺言書の変更・撤回

遺言書はいつでも変更・撤回できます。

変更方法:

  • 新しい遺言書を作成する(日付の新しい方が有効)
  • 既存の遺言書を破棄する

注意点:

  • 公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも可能
  • 一部だけ変更したい場合は、変更箇所を明記した新しい遺言書を作成

遺言書が複数見つかった場合

日付が最も新しい遺言書が有効です。ただし、内容が矛盾しない部分は両方とも有効です。

例:

  • 古い遺言: 「実家を長男に相続させる」
  • 新しい遺言: 「預金を次男に相続させる」 → 両方とも有効(矛盾しないため)

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺言書は何歳から書けますか?

15歳以上であれば遺言書を作成できます(民法第961条)。未成年でも親の同意は不要です。

Q2. 夫婦で1通の遺言書を作成できますか?

できません。遺言書は必ず1人ずつ作成する必要があります(民法第975条)。夫婦連名の遺言書は無効です。

Q3. パソコンで遺言書を作成できますか?

本文はパソコンで作成できません(無効になります)。ただし、財産目録はパソコンで作成可能です(2019年改正)。

Q4. ボールペンで書く必要がありますか?鉛筆はダメですか?

法律上は鉛筆でも有効ですが、改ざんのリスクがあるため、消せないボールペンや万年筆で書くことを強くおすすめします。

Q5. 遺言書に書かれていない財産はどうなりますか?

遺言書に記載のない財産は、法定相続分に従って分けられます。「その他の財産はすべて妻に相続させる」といった包括的な記載も可能です。

Q6. 相続させたくない相続人がいる場合は?

遺留分(法定相続分の1/2)を侵害することはできませんが、遺留分を超える部分については自由に指定できます。「相続させない」と明記することも可能ですが、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。

Q7. 遺言執行者は必ず指定する必要がありますか?

必須ではありませんが、指定しておくと相続手続きがスムーズです。特に不動産の相続登記や預金の解約などは、遺言執行者がいると単独で手続きできます。

Q8. 公正証書遺言の証人は誰に頼めばいいですか?

司法書士、行政書士、弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。公証役場で紹介してもらうことも可能です(1名につき1万円程度)。

Q9. 遺言書の検認とは何ですか?

自筆証書遺言(法務局保管制度を利用していない場合)は、相続開始後に家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。検認は遺言書の存在と内容を確認する手続きで、有効性を判断するものではありません。

Q10. デジタル資産(暗号資産、ネット銀行など)も遺言書に書けますか?

書けます。暗号資産の場合は、取引所名、アカウント情報(ログインIDなど)、秘密鍵の保管場所を記載します。ただし、秘密鍵そのものを遺言書に記載するのはセキュリティ上おすすめしません。

まとめ

遺言書は、自分の死後に家族が困らないようにするための重要な文書です。

自筆証書遺言と公正証書遺言の選び方:

  • 費用を抑えたい、財産がシンプル → 自筆証書遺言(法務局保管)
  • 確実性を重視、財産が複雑 → 公正証書遺言

遺言書作成の重要ポイント:

  1. 形式を守る(日付、署名、押印は必須)
  2. 不動産は登記簿どおりに記載
  3. 財産目録はパソコン作成OK(2019年改正)
  4. 法務局保管制度を活用する(2020年施行)
  5. 定期的に見直す(財産や家族関係の変化に応じて)

遺言書は家族への最後のメッセージです。相続トラブルを防ぎ、円満な相続を実現するために、早めに作成することをおすすめします。

相続に関する手続きについては、相続登記義務化の注意点と罰則で詳しく解説しています。また、相続税はいくらから課税される?では相続税の基礎控除について説明していますので、あわせてご覧ください。

北原 崇寛

北原 崇寛

不動産鑑定士・宅地建物取引士

大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。