相続税申告の期限はいつまで?手続きの流れと必要書類を完全解説

この記事の結論
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限を過ぎると延滞税や無申告加算税が課され、負担が大きく増加します。
本記事では、相続税申告の流れ、必要書類のチェックリスト、期限に間に合わない場合の対処法を解説します。特に不動産がある場合は評価に時間がかかるため、早めの準備が重要です。
相続税申告の期限は「10ヶ月以内」
申告期限の正確な計算方法
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月以内です。
申告期限の計算例
| 死亡日 | 申告期限 |
|---|---|
| 2025年1月15日 | 2025年11月15日 |
| 2025年3月31日 | 2026年1月31日 |
| 2025年5月30日 | 2026年3月30日 |
期限の最終日が土曜日、日曜日、祝日に当たる場合は、その翌日が期限となります。
申告と納付の期限は同じ
相続税は申告期限と納付期限が同じです。つまり、10ヶ月以内に申告書を提出し、税金を納付しなければなりません。
納税資金の準備も重要なポイントです。不動産を売却して納税資金を確保する場合は、売却にも時間がかかるため、早めに計画を立てましょう。
申告先の税務署
相続税の申告書は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出します。相続人の住所地ではないので注意してください。
期限を過ぎた場合のペナルティ
延滞税
申告期限を過ぎて納付した場合、納付が遅れた日数に応じて延滞税がかかります。
延滞税の税率(2025年現在)
| 期間 | 税率 |
|---|---|
| 納期限の翌日から2ヶ月以内 | 年2.4% |
| 2ヶ月を超えた部分 | 年8.7% |
延滞税は日割りで計算されるため、納付が遅れるほど負担が増えます。
無申告加算税
申告期限までに申告書を提出しなかった場合、無申告加算税が課されます。
無申告加算税の税率
| 条件 | 税率 |
|---|---|
| 税務調査前に自主的に申告 | 5% |
| 税務調査の通知後に申告 | 10%〜15% |
| 税務調査で発覚 | 15%〜20% |
さらに、仮装・隠蔽があった場合は重加算税として35%〜40%が課されます。
過少申告加算税
期限内に申告したものの、税額が少なかった場合は過少申告加算税が課されます。
| 条件 | 税率 |
|---|---|
| 税務調査前に自主的に修正 | なし |
| 税務調査の通知後に修正 | 5%〜10% |
| 税務調査で発覚 | 10%〜15% |
ペナルティの計算例
相続税額が1,000万円で、申告期限を3ヶ月過ぎて税務調査後に申告した場合:
- 無申告加算税: 1,000万円 × 15% = 150万円
- 延滞税: 1,000万円 × 2.4% × 60日 ÷ 365日 + 1,000万円 × 8.7% × 30日 ÷ 365日 ≒ 約11万円
- 合計ペナルティ: 約161万円
ペナルティだけで税額の16%以上の負担が発生する可能性があります。
相続税申告の流れ【7ステップ】
ステップ1:死亡届の提出と相続開始(7日以内)
被相続人が亡くなったら、7日以内に市区町村役場へ死亡届を提出します。この届出により戸籍に死亡の記載がなされ、相続が開始します。
同時に、以下の手続きも進めましょう。
- 死亡診断書(死体検案書)の取得
- 年金受給停止の届出
- 健康保険・介護保険の届出
ステップ2:遺言書の確認(〜1ヶ月目)
遺言書の有無を確認します。
自筆証書遺言の場合
家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認には通常1〜2ヶ月かかります。法務局に保管されている場合は検認不要です。
公正証書遺言の場合
検認は不要で、すぐに内容を確認できます。公証役場で遺言書の有無を検索することも可能です。
遺言書の書き方について詳しくは遺言書の書き方完全ガイドをご覧ください。
ステップ3:相続人の確定(〜2ヶ月目)
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、法定相続人を確定させます。
必要な戸籍の種類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
戸籍は本籍地の市区町村役場で取得します。転籍がある場合は複数の役所から取り寄せる必要があり、2〜4週間程度かかることもあります。
法定相続人について詳しくは法定相続人の範囲と順位をご覧ください。
ステップ4:相続財産の調査・評価(〜4ヶ月目)
すべての相続財産を洗い出し、評価額を算定します。
調査対象となる財産
- 不動産: 土地、建物、マンション
- 金融資産: 預貯金、株式、投資信託、国債
- その他: 自動車、貴金属、ゴルフ会員権、生命保険金
- 負債: 借入金、未払いの税金、葬式費用
不動産がある場合の注意点
不動産の相続税評価は、路線価方式または倍率方式で行います。評価額を正確に算定するには、以下の作業が必要です。
- 登記事項証明書の取得
- 公図・地積測量図の取得
- 都市計画区域・用途地域の確認
- 路線価・倍率表の確認
- 各種補正率の適用(不整形地補正、奥行価格補正など)
特に、広大地や不整形地、複数の接道がある土地は評価が複雑になります。不動産が複数ある場合は評価作業だけで1〜2ヶ月かかることも珍しくありません。
不動産評価について詳しくは不動産の相続税評価額の計算方法をご覧ください。
ステップ5:遺産分割協議(〜6ヶ月目)
相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意したら遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名・実印押印が必要です。1人でも合意しない場合は協議が成立せず、家庭裁判所での調停・審判となることもあります。
分割方法の種類
| 分割方法 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産を現物のまま分ける | 長男が土地、次男が預金 |
| 代償分割 | 1人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う | 長男が実家を取得し、次男に1,000万円支払い |
| 換価分割 | 財産を売却して金銭で分ける | 実家を売却して代金を分配 |
| 共有分割 | 財産を共有名義にする | 土地を兄弟2人の共有とする |
遺産分割協議書の書き方について詳しくは遺産分割協議書の書き方完全ガイドをご覧ください。
ステップ6:相続税申告書の作成(〜8ヶ月目)
財産評価と遺産分割が確定したら、相続税申告書を作成します。
相続税申告書の構成
- 第1表:相続税の申告書
- 第2表:相続税の総額の計算書
- 第11表:相続税がかかる財産の明細書
- 第13表:債務及び葬式費用の明細書
- 第15表:相続財産の種類別価額表
- その他、特例適用の場合は追加の別表
相続税額の計算は複雑なため、税理士への依頼をおすすめします。
相続税の計算方法について詳しくは相続税はいくらからかかる?計算方法と基礎控除をご覧ください。
ステップ7:申告・納付(〜10ヶ月目)
申告書を税務署に提出し、税金を納付します。
納付方法
- 現金納付(金融機関または税務署)
- クレジットカード納付
- コンビニ納付(30万円以下)
- 電子納税(e-Tax)
- 振替納税
納税資金が足りない場合は、延納(分割払い)や物納(財産で納付)の制度もあります。ただし、延納には利子税がかかり、物納には厳格な要件があります。
必要書類一覧とチェックリスト
被相続人に関する書類
- 戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 住民票の除票(または戸籍の附票)
- 死亡診断書(コピー)
- 遺言書(ある場合)
相続人に関する書類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員のマイナンバー確認書類
財産に関する書類
不動産
- 登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
- 公図・地積測量図
- 名寄帳(所有不動産の一覧)
- 賃貸借契約書(賃貸している場合)
金融資産
- 預貯金の残高証明書(死亡日時点)
- 過去の取引履歴(過去5年分程度)
- 有価証券の残高証明書
- 生命保険金の支払通知書
その他
- 車検証のコピー
- ゴルフ会員権証書
- 貸金庫の内容物一覧
債務・費用に関する書類
- 借入金の残高証明書
- 未払いの税金・公共料金の明細
- 葬式費用の領収書・明細
期限に間に合わない場合の対処法
遺産分割が間に合わない場合
遺産分割協議がまとまらない場合でも、申告期限までに申告書を提出しなければなりません。
この場合は「未分割」として法定相続分で仮に申告し、分割が確定した後に更正の請求を行います。
未分割申告の注意点
- 配偶者の税額軽減が適用できない(分割確定後に適用可能)
- 小規模宅地等の特例が適用できない(分割確定後に適用可能)
- 「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく
財産評価が間に合わない場合
財産評価に時間がかかる場合も、概算で申告することができます。
評価額が確定した後に、過少であれば修正申告、過大であれば更正の請求を行います。ただし、概算で申告する場合は多めに見積もることをおすすめします。過少申告より過大申告のほうがペナルティリスクが低いためです。
申告期限の延長が認められるケース
以下の場合は、申告期限の延長が認められることがあります。
- 相続人の認知、廃除などで相続人に異動があった場合
- 遺留分侵害額請求により取得財産に変動があった場合
- 相続人が海外に住んでいて書類収集に時間がかかる場合
延長を受けるには、税務署への届出が必要です。
不動産がある場合の注意点
よくある遅延パターン
不動産がある相続で申告が遅れるケースには、以下のパターンが多く見られます。
パターン1:土地の境界が不明確
境界が確定していない土地は、正確な面積が分からず評価が困難です。境界確定には隣地所有者との立会いが必要で、数ヶ月かかることもあります。
パターン2:複数の不動産が各地に点在
被相続人が複数の土地を所有していた場合、それぞれの役所で書類を取得し、評価を行う必要があります。遠方の不動産があると時間がかかります。
パターン3:賃貸物件の評価が複雑
アパートなどの賃貸物件は、貸家建付地としての評価が必要です。入居状況の確認、賃料収入の把握など、追加の作業が発生します。
賃貸不動産の相続について詳しくはアパート・賃貸マンション経営の相続をご覧ください。
パターン4:相続人間で評価額について争い
不動産の評価額について相続人間で意見が分かれると、遺産分割協議が進みません。特に小規模宅地等の特例を誰が使うかで揉めることがあります。
不動産がある場合のスケジュール例
不動産がある相続では、以下のスケジュールを目安に進めましょう。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 相続開始〜1ヶ月 | 死亡届・遺言書確認・戸籍収集開始 |
| 1〜2ヶ月目 | 相続人確定・財産の全体把握 |
| 2〜4ヶ月目 | 不動産の評価(登記・公図取得、現地確認) |
| 4〜6ヶ月目 | 遺産分割協議 |
| 6〜8ヶ月目 | 申告書作成・特例適用の検討 |
| 8〜9ヶ月目 | 申告書の最終確認・納税資金準備 |
| 10ヶ月目 | 申告・納付 |
ポイント: 不動産評価は早めに着手し、遅くとも4ヶ月目までに完了させることが重要です。
専門家に依頼するタイミング
税理士への依頼
以下に該当する場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
- 相続財産が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超える
- 不動産が複数ある
- 小規模宅地等の特例を適用したい
- 事業用財産がある
- 遺産分割で揉める可能性がある
税理士への依頼は、相続開始から2〜3ヶ月以内がベストです。相続税申告に強い税理士を選ぶことが重要です。
税理士の選び方について詳しくは相続税に強い税理士の費用と選び方をご覧ください。
不動産鑑定士への依頼
不動産評価は路線価方式で行うのが原則ですが、以下の場合は不動産鑑定評価を検討する価値があります。
- 路線価評価額が時価より明らかに高い場合
- 市場性が低い土地(崖地、不整形地、広大地など)
- 遺産分割で不動産の時価を知る必要がある場合
不動産鑑定評価を用いることで、相続税を大幅に減額できるケースもあります。
弁護士への依頼
以下の場合は、弁護士への相談が必要です。
- 遺産分割で相続人間の対立がある
- 遺言書の有効性に疑義がある
- 遺留分侵害額請求を検討している
遺留分について詳しくは遺留分侵害額請求とは?トラブルを防ぐ対策をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続税の申告が必要かどうか、どう判断すればいいですか?
相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合、申告が必要です。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。
例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 3)です。相続財産がこれを超える場合は申告が必要です。
Q2. 申告期限を過ぎてしまいました。今からでも申告できますか?
できます。期限後申告として提出してください。ただし、無申告加算税や延滞税がかかります。税務調査の前に自主的に申告すれば、ペナルティを軽減できます。
Q3. 相続人が海外に住んでいる場合、手続きはどうなりますか?
海外居住の相続人も、日本国内の財産について相続税の申告義務があります。書類の取得や署名に時間がかかるため、早めの準備が必要です。
Q4. 遺産分割がまとまらない場合はどうすればいいですか?
未分割のまま法定相続分で申告し、分割確定後に更正の請求を行います。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、特例の適用を受けられます。
Q5. 相続税を現金で払えない場合はどうすればいいですか?
延納(分割払い)または物納(財産で納付)の制度があります。延納は担保が必要で利子税がかかります。物納は厳格な要件があり、認められないケースも多いです。
Q6. 税理士に依頼すると費用はどのくらいかかりますか?
相続財産の総額や複雑さによりますが、一般的に相続財産の0.5%〜1%程度が目安です。1億円の相続財産であれば50万円〜100万円程度です。
Q7. 申告期限までに不動産の評価が間に合いそうにありません。
概算で申告し、評価確定後に修正申告または更正の請求を行うことができます。多めに見積もって申告するのが安全です。
Q8. 小規模宅地等の特例を使いたいのですが、申告は必要ですか?
はい。特例を適用して相続税がゼロになる場合でも、申告は必要です。申告しないと特例が適用されず、税金がかかってしまいます。
Q9. 相続財産に借金が含まれています。どう処理すればいいですか?
借金(債務)は相続財産から差し引くことができます。ただし、相続放棄を検討する場合は3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。
相続放棄について詳しくは相続放棄の期限と手続きをご覧ください。
Q10. 生命保険金は相続税の対象になりますか?
被保険者が被相続人で、保険料を被相続人が負担していた場合、対象になります。ただし、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
まとめ
相続税申告の期限は相続開始から10ヶ月以内です。期限を過ぎると延滞税や無申告加算税がかかるため、計画的に進めることが重要です。
申告までの流れ
- 死亡届の提出・遺言書の確認(〜1ヶ月)
- 相続人の確定(〜2ヶ月)
- 相続財産の調査・評価(〜4ヶ月)
- 遺産分割協議(〜6ヶ月)
- 相続税申告書の作成(〜8ヶ月)
- 申告・納付(〜10ヶ月)
不動産がある場合のポイント
不動産の評価には時間がかかるため、早めに着手することが重要です。登記や公図の取得、路線価の確認、補正率の適用など、複数の作業が必要です。
遅くとも相続開始から4ヶ月以内に不動産評価を完了させ、余裕をもって遺産分割協議に臨みましょう。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談・税務相談ではありません。相続に関する具体的な判断や手続きについては、弁護士・税理士・司法書士などの専門家にご相談ください。
また、法改正により内容が変更される可能性があります。最新の情報は国税庁・法務省などの公式サイトでご確認ください。

北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


