預貯金の相続手続き完全ガイド|銀行口座の凍結解除から名義変更まで

この記事の結論
銀行口座の相続手続きは、相続人全員の協力と必要書類の準備があれば1〜3週間で完了します。 死亡届の提出で自動凍結されるという誤解が広まっていますが、実際には金融機関が死亡の事実を知った時点で凍結されます。手続きには戸籍謄本・印鑑証明・遺産分割協議書などが必要ですが、法定相続情報一覧図を活用すれば複数の金融機関で同時進行が可能です。また、2019年の民法改正により、遺産分割前でも一定額まで預金を引き出せる仮払い制度が利用できるようになりました。
銀行口座が凍結される理由とタイミング
口座が凍結される3つのタイミング
銀行口座が凍結されるのは、以下の3つのタイミングです。
- 相続人が金融機関に死亡を届け出たとき
- 金融機関が新聞の訃報欄などで死亡を知ったとき
- 金融機関が他の相続人や関係者から死亡の連絡を受けたとき
「死亡届を市区町村に提出すると自動的に口座が凍結される」というのは誤解です。 市区町村と金融機関の間で個人情報を共有する仕組みはありません(2025年12月時点)。口座凍結は、あくまで金融機関が独自に死亡の事実を知った時点で行われます。
ただし、金融機関によっては訃報欄を定期的にチェックしているため、著名人や地域の名士の場合は相続人が届け出る前に凍結されることもあります。
口座凍結によって使えなくなる取引
口座が凍結されると、以下の取引がすべて停止します。
- 現金の引き出し(ATM・窓口ともに不可)
- 公共料金の自動引き落とし(電気・ガス・水道・携帯電話など)
- クレジットカードの引き落とし
- 年金の振込
- 家賃・駐車場代などの自動送金
- 定期預金の解約
- インターネットバンキングの操作
特に注意が必要なのは、公共料金やクレジットカードの引き落としが停止されると、未払いが発生して信用情報に影響する可能性があることです。凍結後は速やかに引き落とし口座の変更手続きを行いましょう。
凍結前に引き出すのは違法?
「葬儀費用が必要だから凍結前に引き出したい」という相談をよく受けますが、法律上は以下のように整理できます。
法律論:
- 故人の預金は相続開始と同時に相続人全員の共有財産になります(民法898条)
- 一部の相続人が単独で引き出すと、他の相続人の権利を侵害する可能性があります
- 引き出した金額は「特別受益」として遺産分割時に考慮されます
実務上の対応:
- 相続人全員の了解を得て、使途を明確にして引き出すのが最も安全
- 引き出した金額・日時・使途を記録し、領収書を保管
- できれば他の相続人に事前・事後の報告を行う
トラブル防止のポイント:
- 葬儀費用などやむを得ない場合は、後述する「仮払い制度」の利用を検討
- 引き出した金額は遺産分割協議書に明記
- 使途不明金にならないよう、証拠書類を残す
預貯金の相続手続きの全体像
手続きの5つのステップ
預貯金の相続手続きは、以下の5つのステップで進めます。
ステップ1: 死亡届と口座凍結(死亡後1〜7日)
- 市区町村に死亡届を提出
- 金融機関に死亡を届け出(または金融機関が知った時点で凍結)
- 残高証明書の発行依頼
ステップ2: 相続人の確定(死亡後1〜2ヶ月)
- 戸籍謄本の収集(出生から死亡まで)
- 相続人全員の現在戸籍の取得
- 法定相続情報一覧図の作成(推奨)
ステップ3: 遺産分割協議(死亡後2〜4ヶ月)
- 相続財産の調査・確定
- 相続人全員で分割方法を協議
- 遺産分割協議書の作成・署名・押印
ステップ4: 銀行への書類提出(死亡後3〜5ヶ月)
- 金融機関所定の相続手続き依頼書の提出
- 必要書類の提出
- 書類審査(1〜2週間)
ステップ5: 払い戻し・名義変更(死亡後4〜6ヶ月)
- 指定口座への振込または現金での受け取り
- 口座の解約または名義変更
所要時間と期限
処理期間:
- 書類が揃ってから1〜3週間が標準的
- 複雑なケース(相続人多数、海外在住者あり)は1〜2ヶ月かかることも
- 年末年始・ゴールデンウィークは処理が遅延する傾向
期限:
- 預金の相続手続き自体に法律上の期限はありません
- ただし、**相続税の申告期限(死亡から10ヶ月)**には注意
- 相続税の納税資金として預金を充てる場合は、9ヶ月以内に手続き完了を目指す
時間短縮のコツ:
- 法定相続情報一覧図を活用すれば、複数の金融機関で同時進行可能
- 戸籍謄本は郵送請求を活用(本籍地が遠方の場合)
- 金融機関の窓口に事前予約すれば待ち時間を短縮
遺言書がある場合とない場合の違い
遺言書がある場合:
- 遺産分割協議書は不要
- 遺言書の検認済証明書(公正証書遺言は不要)
- 受遺者の本人確認書類・印鑑証明
- 手続きは1〜2週間で完了
遺言書がない場合:
- 遺産分割協議書が必要
- 相続人全員の署名・実印の押印・印鑑証明
- 相続人全員の協力が必要なため、2〜4ヶ月かかることも
公正証書遺言のメリット:
- 検認手続き不要(家庭裁判所に行く必要なし)
- 金融機関の受付がスムーズ
- 偽造・紛失のリスクがない
銀行別の手続き方法と必要書類
メガバンクの手続き方法(三菱UFJ・三井住友・みずほ)
主要なメガバンクの手続き方法を比較表にまとめました(2025年12月時点)。
| 項目 | 三菱UFJ銀行 | 三井住友銀行 | みずほ銀行 |
|---|---|---|---|
| 受付窓口 | 全国の支店 | 全国の本支店 | 全国の本支店 |
| 専用相談窓口 | 相続センター(電話予約制) | 相続手続きサポートデスク | 相続デスク |
| オンライン受付 | なし | なし | なし |
| 必要書類 | ほぼ共通(下記参照) | ほぼ共通(下記参照) | ほぼ共通(下記参照) |
| 処理期間 | 1〜2週間 | 1〜2週間 | 1〜3週間 |
| 残高証明書発行 | 無料(相続人) | 無料(相続人) | 無料(相続人) |
| 法定相続情報 | 利用可 | 利用可 | 利用可 |
共通の手続きフロー:
- 電話または窓口で相続の届け出
- 金融機関所定の書類一式を受け取り
- 必要書類を準備して提出
- 書類審査(1〜2週間)
- 払い戻しまたは名義変更
三菱UFJ銀行の特徴:
- 「相続センター」で専門スタッフが対応
- オンラインで書類のダウンロード可能
- 残高証明書の発行が比較的早い(2〜3営業日)
三井住友銀行の特徴:
- 「相続手続きサポートデスク」が充実
- 書類の記入例が詳しい
- 法定相続情報一覧図の活用を推奨
みずほ銀行の特徴:
- 「相続デスク」で電話相談可能
- 処理期間がやや長め(1〜3週間)
- 口座数が多い場合は支店ごとの手続きが必要なことも
ゆうちょ銀行の手続き方法
ゆうちょ銀行は、全国どの郵便局でも相続手続きの受付が可能です。
手続きフロー:
- 最寄りの郵便局(貯金窓口)で「相続確認表」を提出
- 本人確認後、「必要書類のご案内」を受け取り
- 必要書類を準備して提出
- ゆうちょ銀行貯金事務センターで審査(2〜3週間)
- 払い戻しまたは名義変更
ゆうちょ銀行の特徴:
- 全国どの郵便局でも受付可能(口座開設店舗以外でもOK)
- 通常貯金・定期貯金・定額貯金すべて同じ手続き
- 処理期間は2〜3週間(他行よりやや長め)
- 法定相続情報一覧図の利用可能
注意点:
- 小さな郵便局では担当者の知識にばらつきがある
- 複雑なケースは大きな郵便局(ゆうちょ銀行店舗)への案内も
- 貯金事務センターでの審査が必要なため、他行より時間がかかる傾向
ネット銀行の手続き方法
ネット銀行は窓口がないため、郵送またはオンラインでの手続きが中心です。
楽天銀行:
- カスタマーセンターに電話で相続の届け出
- 必要書類を郵送で提出
- 処理期間: 1〜2週間
- 法定相続情報一覧図の利用可能
住信SBIネット銀行:
- カスタマーセンターに電話で相続の届け出
- 「相続手続き依頼書」を郵送で受け取り
- 必要書類を郵送で提出
- 処理期間: 2〜3週間
- 法定相続情報一覧図の利用可能
PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行):
- カスタマーセンターに電話で相続の届け出
- 必要書類を郵送で提出
- 処理期間: 1〜2週間
- 法定相続情報一覧図の利用可能
ネット銀行の共通の特徴:
- すべて郵送での手続き(窓口なし)
- カスタマーセンターの電話受付時間が限定的
- 処理期間は1〜3週間(メガバンクと同程度)
- 法定相続情報一覧図があればスムーズ
注意点:
- 郵送のやり取りで時間がかかることも
- 書類の不備があると再提出で大幅に遅延
- カスタマーセンターの電話がつながりにくい時間帯あり
預貯金の相続に必要な書類一覧
すべての銀行で共通して必要な書類
預貯金の相続手続きに必要な書類は、どの金融機関でもほぼ共通しています。
1. 金融機関所定の書類
- 相続手続き依頼書(相続届)
- 払戻請求書
- 金融機関によって名称・様式が異なる
2. 故人に関する書類
- 戸籍謄本(除籍謄本):出生から死亡までの連続したもの
- 住民票の除票または戸籍の附票:本籍地記載あり
- 目的:相続人の確定、口座名義人の死亡確認
3. 相続人全員に関する書類
- 戸籍謄本:相続人全員の現在戸籍
- 印鑑証明書:相続人全員(発行後3ヶ月以内)
- 本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど
4. 遺産分割に関する書類
遺言書がある場合:
- 遺言書(原本)
- 検認済証明書(自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
- 公正証書遺言の謄本(公正証書遺言の場合)
遺言書がない場合:
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
- または法定相続分での払戻請求書(金融機関所定)
法定相続分で分割する場合:
- 遺産分割協議書は不要
- 金融機関所定の「法定相続分払戻請求書」に全員が署名・押印
5. その他
- 通帳・キャッシュカード(ある場合)
- 届出印(わかる場合)
書類取得の時短テクニック
法定相続情報一覧図を活用する
法定相続情報一覧図は、法務局が認証する相続関係を証明する書類です。これを活用すれば、戸籍謄本の束を何度も提出する必要がなくなります。
メリット:
- 複数の金融機関で同時に手続き可能(戸籍謄本の原本を返却待ちする必要なし)
- 1枚の書類で相続関係を証明(金融機関の担当者も確認が早い)
- 無料で何通でも発行可能
- 不動産登記・銀行・証券会社・保険会社すべてで使える
取得方法:
- 法務局のウェブサイトから申請書をダウンロード
- 戸籍謄本一式と申請書を法務局に提出(郵送可)
- 法務局が内容を確認・認証(1〜2週間)
- 法定相続情報一覧図を受け取り(無料・何通でも発行可)
具体例:
- 銀行3行、証券会社1社、保険会社2社で手続きが必要な場合
- 従来:戸籍謄本一式を1社ずつ提出→返却→次の会社へ提出(数ヶ月かかる)
- 法定相続情報一覧図:6通発行して全社に同時提出(1〜2ヶ月で完了)
戸籍謄本の郵送請求
本籍地が遠方の場合、郵送で戸籍謄本を請求できます。
必要なもの:
- 戸籍謄本等請求書(市区町村のウェブサイトからダウンロード可能)
- 手数料(定額小為替)
- 本人確認書類のコピー
- 返信用封筒(切手貼付)
所要時間: 往復の郵送期間を含めて1〜2週間
時短のコツ:
- 速達・レターパックを利用(往復で+700円程度)
- 定額小為替は多めに送る(差額は返却される)
- 「出生から死亡まですべて」と明記
遺産分割前に預金を引き出す方法(仮払い制度)
仮払い制度とは?
仮払い制度は、遺産分割前でも一定額まで預金を引き出せる制度です。 2019年7月1日施行の民法改正(民法909条の2)により創設されました。
制度創設の背景:
- 従来は遺産分割が終わるまで預金を一切引き出せなかった
- 葬儀費用や当面の生活費に困る相続人が続出
- 実務上、一部の相続人が勝手に引き出してトラブルになるケースも
仮払い制度の目的:
- 葬儀費用の支払い
- 相続人の当面の生活費
- 相続債務の弁済
引き出せる金額の上限
仮払い制度で引き出せる金額には、法律で明確な上限が定められています。
計算式:
引き出せる金額 = 相続開始時の預金残高 × 1/3 × 法定相続分
さらに上限:
- 1つの金融機関あたり150万円まで
- 複数の口座がある場合は合算して150万円
具体例1: 配偶者と子2人のケース
- 故人の預金残高: 900万円
- 相続人: 配偶者(法定相続分1/2)、子2人(各1/4)
配偶者が引き出せる金額:
900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円
子1人が引き出せる金額:
900万円 × 1/3 × 1/4 = 75万円
具体例2: 複数の銀行に口座があるケース
- A銀行: 600万円
- B銀行: 400万円
- 相続人: 配偶者(法定相続分1/2)
配偶者が引き出せる金額:
- A銀行: 600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
- B銀行: 400万円 × 1/3 × 1/2 = 約66万円
- 合計: 166万円(それぞれの銀行で上限150万円以内)
仮払い制度の利用手順と注意点
手続き方法:
- 金融機関の窓口で「仮払い制度を利用したい」と申し出
- 必要書類を提出
- 故人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 請求者の本人確認書類・印鑑証明
- 使途を説明する書類(葬儀費用の見積書など)
- 金融機関が書類審査(1〜2週間)
- 払い戻し
注意点:
1. 遺産分割時に精算される
- 仮払いで受け取った金額は、遺産分割時に「特別受益」として扱われます
- 最終的な取り分から差し引かれる
2. 他の相続人の同意は不要
- 法律上、他の相続人の同意なく引き出せます
- ただし、事後報告しておくとトラブル防止になります
3. 使途の記録を残す
- 引き出した金額の使い道を記録
- 領収書を保管
- 遺産分割協議時に説明できるようにする
4. 金融機関によって対応が異なる
- すべての金融機関が仮払い制度に対応しているわけではない
- 事前に電話で確認すると確実
仮払い制度を使うべきケース:
- 葬儀費用が手元にない
- 故人の住宅ローンや公共料金の支払いが迫っている
- 相続人の生活費が底をついている
- 遺産分割協議が長期化しそう
預貯金の評価方法と相続税申告での取り扱い
預貯金の相続税評価額
相続税の申告において、預貯金の評価額は以下のように計算します。
評価額 = 死亡日時点の残高 + 既経過利息
既経過利息とは:
- 最後の利払日から死亡日までに発生している利息
- 定期預金・定額貯金の場合に発生
- 通常貯金・普通預金は利息がわずかなため無視されることが多い
計算例:
ケース1: 普通預金
- 死亡日: 2025年6月15日
- 残高: 500万円
- 既経過利息: 約50円(年利0.02%の場合)
- 評価額: 500万円(既経過利息は少額のため四捨五入)
ケース2: 定期預金
- 死亡日: 2025年6月15日
- 残高: 1,000万円
- 預入期間: 2024年6月15日〜2026年6月15日(2年)
- 金利: 年0.3%
- 既経過利息: 1,000万円 × 0.3% × 1年 = 3万円
- 源泉徴収税: 3万円 × 20.315% = 約6,095円
- 評価額: 1,000万円 + 2万3,905円 = 1,002万3,905円
残高証明書の取得と評価
残高証明書とは: 金融機関が発行する、特定の日時点での残高を証明する書類です。
取得方法:
- 金融機関の窓口で「相続税申告用の残高証明書」を依頼
- 必要書類を提出
- 故人の死亡が確認できる戸籍謄本
- 請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本
- 請求者の本人確認書類
- 手数料を支払い(1通500〜1,000円程度)
- 1〜2週間で発行
残高証明書に記載される内容:
- 基準日: 死亡日時点
- 口座番号
- 口座種別(普通預金・定期預金など)
- 残高
- 既経過利息(定期預金の場合)
複数の口座がある場合:
- すべての口座の残高証明書を取得
- 「名寄せ」を依頼すると、同一金融機関のすべての口座を一覧で証明
相続税申告での使用:
- 残高証明書は相続税申告書に添付
- 税理士に依頼する場合は原本を渡す
- 預金通帳のコピーも補足資料として有用
よくあるトラブルと対処法
相続人の一人が協力しない
トラブル例: 「兄が遺産分割協議書に署名・押印してくれない。銀行の手続きが進まない」
原因:
- 遺産分割の内容に不満がある
- 感情的な対立(生前の介護負担、被相続人との関係など)
- 連絡が取れない(音信不通、海外在住など)
対処法:
1. まずは対話で解決を試みる
- 不満の原因をヒアリング
- 分割内容の見直しを検討
- 専門家(弁護士、司法書士)の同席も有効
2. 家庭裁判所の調停を利用
- 遺産分割調停を申し立て
- 調停委員が間に入って話し合い
- 調停が成立すれば「調停調書」が遺産分割協議書の代わりになる
3. 音信不通の場合
- 最後の住所地に「配達証明付き内容証明郵便」を送付
- それでも連絡が取れない場合は「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立て
- 不在者財産管理人が代わりに遺産分割協議に参加
4. 法定相続分での払戻しを検討
- 協議が整わない場合、法定相続分での払戻しも可能
- ただし、金融機関によっては相続人全員の同意を求めることも
銀行が書類を受け付けない
トラブル例: 「必要書類をすべて揃えたのに、銀行が『この書類では受け付けられない』と言われた」
よくある理由:
1. 印鑑証明書の有効期限切れ
- ほとんどの金融機関は「発行後3ヶ月以内」を要求
- 準備に時間がかかると期限切れになることも
- 対処法: 有効期限を確認し、期限が近い場合は再取得
2. 戸籍謄本の連続性が証明できない
- 「出生から死亡まで」の戸籍が途切れている
- 転籍が多いと取得漏れが発生しやすい
- 対処法: 戸籍の附票で転籍履歴を確認し、漏れている戸籍を追加取得
3. 遺産分割協議書の記載不備
- 相続人全員の署名・実印押印が揃っていない
- 口座番号・金額の記載が曖昧
- 対処法: 金融機関の担当者に具体的な不備箇所を確認し、修正
4. 金融機関所定の書式が古い
- ウェブサイトからダウンロードした書式が最新版でない
- 対処法: 窓口で最新の書式を受け取る、または電話で最新版を郵送依頼
5. 担当者の知識不足
- 特に小さな支店や郵便局では、相続手続きの経験が少ない担当者も
- 対処法: 本店や相続専門窓口に問い合わせ、正確な情報を確認
故人の口座がどこにあるかわからない
トラブル例: 「父が生前どの銀行に口座を持っていたか教えてくれなかった。どうやって調べればいい?」
調査方法:
1. 通帳・キャッシュカード・取引明細を探す
- 自宅の金庫、引き出し、書斎を徹底的に捜索
- 郵便物(銀行からのダイレクトメール、残高通知)も手がかり
2. 郵便物・メールから推測
- 公共料金の引き落とし口座
- 年金の振込口座
- クレジットカードの引き落とし口座
3. 全国銀行協会の「預金等照会制度」を利用
- 2022年4月開始の制度
- 故人の預貯金口座を一括照会できる
- 手数料: 1回の照会で約4,000円
- 対象: 銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協など
- 所要時間: 照会から回答まで2〜3週間
- 照会方法: 全国銀行協会のウェブサイトから申込書をダウンロード→郵送で提出
4. 金融機関に直接問い合わせ
- 故人の住所地や勤務先の近くにある金融機関に電話
- 「口座の有無を確認したい」と伝える
- 必要書類(戸籍謄本、本人確認書類)を提示すれば、口座の有無を教えてくれる
5. 相続税の申告書控え(過去に相続があった場合)
- 故人が過去に相続を受けていた場合、その申告書に金融機関の記載があることも
預金と不動産で分割方法が決まらない
トラブル例: 「遺産が実家(不動産)と預金2,000万円。長男が実家を相続したいが、次男は『不動産の価値が不明確で不公平』と主張」
原因:
- 不動産の評価額が明確でない
- 不動産を相続する人と預金を相続する人で不公平感が生じる
- 「思い入れ」と「経済的価値」のバランスが難しい
対処法:
1. 不動産の適正評価を行う
- 固定資産税評価額: 市場価格の70%程度(目安)
- 路線価: 相続税評価額の算定に使用(市場価格の80%程度)
- 不動産鑑定評価: 最も正確だが費用がかかる(20〜30万円)
- 不動産会社の査定: 無料だが売却前提の価格
遺産分割で揉めている場合、不動産鑑定評価を取得するのが最も公平です。鑑定評価書は家庭裁判所の調停でも証拠として採用されます。「実家を残したい」という希望がある場合、代償分割と組み合わせる方法が有効です。
2. 代償分割を活用
- 長男が実家を相続し、次男に現金で代償金を支払う
計算例:
- 実家の鑑定評価額: 3,000万円
- 預金: 2,000万円
- 合計: 5,000万円
- 法定相続分(各1/2): 2,500万円ずつ
- 長男: 実家3,000万円を取得 → 次男に500万円を代償金として支払い → 実質的な取得額2,500万円
- 次男: 預金2,000万円 + 代償金500万円 = 2,500万円
3. 換価分割を検討
- 不動産を売却して現金化し、分割する
- 「実家を残したい」という希望がない場合は最も公平
- ただし、売却に時間がかかる(3〜6ヶ月)、仲介手数料・譲渡所得税が発生
4. 共有はできるだけ避ける
- 不動産を兄弟で共有すると、将来の売却・管理で揉める原因に
- やむを得ず共有する場合は、「共有物分割請求権」の行使期限を遺産分割協議書に明記
不動産鑑定評価のメリット:
- 客観的で公正な評価額の算定
- 裁判所・税務署が認める評価書の作成
- 感情的な対立を避け、数字で冷静な議論が可能に
- 代償分割の金額算定の根拠となる
預貯金相続手続きのチェックリスト
相続開始直後(1週間以内)
- 死亡届を市区町村に提出(7日以内)
- 主な金融機関に電話で死亡を届け出(任意)
- 公共料金・クレジットカードの引き落とし口座を変更
- 葬儀費用の支払い方法を確認(仮払い制度の検討)
- 通帳・キャッシュカード・取引明細を探す
相続開始後1〜3ヶ月
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得
- 相続人全員の現在戸籍を取得
- 法定相続情報一覧図の作成・取得(推奨)
- 金融機関に残高証明書を請求
- 遺言書の有無を確認(自宅、公証役場、法務局)
- 自筆証書遺言・秘密証書遺言は家庭裁判所で検認
相続開始後3〜6ヶ月
- 相続財産の調査・確定(相続財産の調査方法完全ガイドを参照)
- 相続人全員で遺産分割協議
- 遺産分割協議書を作成・署名・押印(遺産分割協議書の書き方【テンプレート付】を参照)
- 相続人全員の印鑑証明書を取得(発行後3ヶ月以内)
- 金融機関に相続手続き依頼書を提出
- 必要書類を金融機関に提出
- 不動産の評価が必要な場合は不動産鑑定士に相談
相続開始後6〜10ヶ月
- 金融機関から払い戻しまたは名義変更完了の連絡を受ける
- 相続税の申告準備(基礎控除を超える場合)
- 税理士に相続税申告を依頼(必要な場合)
- 相続税の申告・納付(死亡から10ヶ月以内)
- 小規模宅地等の特例の適用を検討(小規模宅地等の特例を最大限活用する方法を参照)
その他
- 生命保険金の請求(受取人指定がある場合は遺産分割不要)
- 年金の停止手続き・未支給年金の請求
- 株式・投資信託の相続手続き
- 不動産の相続登記(2024年4月から義務化)
よくある質問(FAQ)
Q1: 死亡届を出すと銀行口座は自動的に凍結されますか?
A: いいえ、自動的には凍結されません。市区町村と金融機関の間で情報共有の仕組みはありません。口座が凍結されるのは、金融機関が相続人の届け出や訃報欄などで死亡の事実を知った時点です。
Q2: 凍結前に預金を引き出しても問題ありませんか?
A: 法律上は、故人の預金は相続開始と同時に相続人全員の共有財産になるため、一部の相続人が単独で引き出すと他の相続人の権利を侵害する可能性があります。やむを得ず引き出す場合は、以下の点に注意してください。
- 相続人全員の了解を得る
- 使途を明確にする(葬儀費用、公共料金など)
- 引き出した金額・日時・使途を記録し、領収書を保管
- 遺産分割協議書に明記する
または、2019年に創設された「仮払い制度」を利用すれば、法律に基づいて一定額まで引き出せます。
Q3: 遺産分割協議がまとまらない場合、預金は永遠に引き出せませんか?
A: いいえ、以下の方法で解決できます。
- 仮払い制度: 遺産分割前でも一定額(預金残高×1/3×法定相続分、上限150万円)まで引き出し可能
- 家庭裁判所の調停: 調停委員が間に入って話し合い。調停が成立すれば調停調書で払い戻し可能
- 法定相続分での払戻し: 遺産分割協議書なしで、法定相続分に応じて払い戻し(金融機関によっては全員の同意が必要)
Q4: 故人の口座がどこにあるかわかりません。どうやって調べればいいですか?
A: 以下の方法で調査できます。
- 自宅の捜索: 通帳・キャッシュカード・取引明細・郵便物を探す
- 全国銀行協会の「預金等照会制度」: 2022年4月開始。一括照会が可能(手数料約4,000円、所要期間2〜3週間)
- 金融機関に直接問い合わせ: 故人の住所地や勤務先の近くの金融機関に電話。戸籍謄本を提示すれば口座の有無を教えてくれる
Q5: 法定相続情報一覧図とは何ですか?作成するメリットは?
A: 法定相続情報一覧図は、法務局が認証する相続関係を証明する書類です。以下のメリットがあります。
- 複数の金融機関で同時に手続き可能: 戸籍謄本の束を何度も提出する必要がなくなる
- 1枚で相続関係を証明: 金融機関の担当者も確認が早い
- 無料で何通でも発行可能: 銀行・証券会社・保険会社・不動産登記すべてで使える
- 手続きの大幅な時短: 従来は数ヶ月かかった手続きが1〜2ヶ月で完了
作成方法は、法務局のウェブサイトから申請書をダウンロードし、戸籍謄本一式と一緒に提出するだけです(郵送可)。1〜2週間で発行されます。
Q6: 相続税の申告が必要かどうかわかりません
A: 相続税には基礎控除があり、遺産総額が基礎控除以下なら申告不要です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
具体例:
- 相続人が配偶者と子2人(計3人)の場合: 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
- 遺産総額が4,800万円以下なら申告不要
ただし、以下の特例を使う場合は、遺産総額が基礎控除以下でも申告が必要です。
- 配偶者の税額軽減(配偶者は1億6,000万円まで非課税)
- 小規模宅地等の特例(自宅の評価額を最大80%減額)
詳しくは小規模宅地等の特例を最大限活用する方法をご覧ください。
Q7: 銀行の手続きにどれくらい時間がかかりますか?
A: 書類が揃ってから1〜3週間が標準的です。
- メガバンク: 1〜2週間
- ゆうちょ銀行: 2〜3週間
- ネット銀行: 1〜3週間
ただし、以下の場合は時間がかかることがあります。
- 相続人が多数(10人以上)
- 海外在住の相続人がいる
- 書類に不備がある
- 年末年始・ゴールデンウィーク
時短のコツは、法定相続情報一覧図を活用し、複数の金融機関で同時に手続きを進めることです。
Q8: 遺言書があれば遺産分割協議書は不要ですか?
A: はい、遺言書があれば原則として遺産分割協議書は不要です。ただし、以下の点に注意してください。
- 自筆証書遺言・秘密証書遺言: 家庭裁判所での検認が必要。検認済証明書を金融機関に提出
- 公正証書遺言: 検認不要。遺言書の謄本を金融機関に提出
- 法務局保管の自筆証書遺言: 検認不要。遺言書情報証明書を金融機関に提出
遺言書があっても、相続人全員の合意があれば遺言と異なる内容で遺産分割することも可能です(その場合は遺産分割協議書が必要)。
まとめ
預貯金の相続手続きで押さえるべき3つのポイント
1. 口座凍結は「死亡届の提出」では起こらない
- 金融機関が死亡の事実を知った時点で凍結
- 凍結前の引き出しは相続人全員の了解を得て慎重に
- 仮払い制度(預金残高×1/3×法定相続分、上限150万円)を活用
2. 法定相続情報一覧図で時間を大幅短縮
- 複数の金融機関で同時に手続き可能
- 無料で何通でも発行可能
- 不動産登記・証券・保険でも使える
3. 遺産分割協議は不動産の評価がカギ
- 預金と不動産で分割方法が決まらない場合、不動産鑑定評価を取得
- 代償分割を活用すれば「実家を残したい」という希望も実現可能
- 共有はできるだけ避ける
次のステップ
預貯金の相続手続きが完了したら、以下のステップに進みましょう。
- 不動産の相続登記: 2024年4月から義務化(3年以内)
- 相続税の申告: 遺産総額が基礎控除を超える場合(死亡から10ヶ月以内)
- 株式・投資信託の相続手続き: 証券会社ごとに手続きが必要
- 生命保険金の請求: 受取人指定がある場合は遺産分割不要
相続手続きは複雑で時間がかかりますが、一つひとつ着実に進めれば必ず完了します。不明点があれば、司法書士・税理士・不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします。
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北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


