遺留分侵害額請求とは?トラブルを防ぐ対策【2025年最新】

この記事の結論
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって法定相続分を下回る財産しか受け取れなかった相続人が、他の相続人や受遺者に対して金銭での補償を求める制度です。2019年の民法改正により、従来の現物返還から金銭請求に変わり、不動産の共有化を避けられるようになりました。
トラブルを防ぐには、生前に遺留分を考慮した遺言書を作成し、不動産の評価額を適正に算定することが重要です。不動産評価額は遺留分額に直接影響するため、路線価・固定資産税評価額・時価のどれを使うかで金額が変わります。請求された場合は、弁護士と不動産鑑定士に相談し、適正な金額で解決することをおすすめします。
遺留分侵害額請求とは:2019年民法改正の内容
遺留分制度の基礎知識
遺留分とは、一定範囲の法定相続人に保障される最低限の相続分のことです。被相続人が遺言書で自由に財産を処分できる一方、相続人の生活保障や公平性の観点から、一定の取り分を確保する制度が設けられています。
遺留分を持つ相続人は以下の通りです:
- 配偶者
- 子(直系卑属)
- 親(直系尊属)
重要なのは、兄弟姉妹には遺留分がないという点です。例えば、子がいない夫婦で配偶者が亡くなり、遺言で「全財産を友人に遺贈する」と書かれていても、兄弟姉妹は遺留分を請求できません。一方、同じケースで親が存命であれば、親は遺留分を請求できます。
遺留分の割合
遺留分の割合は、相続人の構成によって異なります:
直系尊属のみが相続人の場合
遺産全体の3分の1が遺留分となります。
例:被相続人の親のみが相続人の場合、親の遺留分は遺産の3分の1です。
その他の場合
遺産全体の2分の1が遺留分となります。
具体的な計算例を見てみましょう。
ケース1:配偶者と子2人が相続人の場合
遺産全体の2分の1が遺留分の総額です。各相続人の遺留分は、法定相続分に応じて配分されます。
- 配偶者の法定相続分:2分の1 → 遺留分:4分の1(1/2 × 1/2)
- 長男の法定相続分:4分の1 → 遺留分:8分の1(1/4 × 1/2)
- 次男の法定相続分:4分の1 → 遺留分:8分の1(1/4 × 1/2)
ケース2:子3人のみが相続人の場合
- 各子の法定相続分:3分の1 → 遺留分:6分の1(1/3 × 1/2)
2019年民法改正の内容
2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分制度が大きく変わりました。
旧制度:遺留分減殺請求(現物返還)
改正前は「遺留分減殺請求」という制度でした。遺留分を侵害された相続人は、遺贈や贈与の対象となった財産そのものの返還を求めることができました。
例えば、遺言で長男が自宅(評価額3,000万円)を相続した場合、次男が遺留分減殺請求をすると、自宅の一部(持分)が次男に移転し、兄弟で共有状態になってしまいました。
新制度:遺留分侵害額請求(金銭請求)
改正後は「遺留分侵害額請求」となり、金銭での支払いを求める制度に変わりました。
同じケースでも、次男は自宅の持分ではなく、遺留分に相当する金額(例:375万円)を長男に請求します。自宅の所有権は長男が単独で保有できるため、不動産の共有化を避けられます。
改正のメリット
- 不動産の共有化を回避できる:相続後も不動産を単独で所有・管理・処分できる
- 事業承継がスムーズに:事業用不動産や自社株式が共有化されず、事業継続に支障が出ない
- 解決方法が明確:金銭での解決となるため、交渉がシンプルになる
改正のデメリット
- 請求された側の資金負担が増える:不動産を相続しても、現金がなければ遺留分を支払えない
- 不動産評価額が争点化しやすい:金銭請求となったため、不動産の評価額が金額に直結する
- 分割払いの合意が必要:法律上は一括払いが原則で、分割払いには相手の同意が必要
遺留分額の計算方法:不動産評価がカギ
遺留分額の計算ステップ
遺留分額は、以下の4つのステップで計算します。
ステップ1:遺留分算定の基礎となる財産の確定
まず、遺留分を計算する基礎となる財産(遺留分算定基礎財産)を確定します。
計算式:
遺留分算定基礎財産 = 相続開始時の財産 + 生前贈与 - 債務
相続開始時の財産:
- 不動産(自宅、土地、建物)
- 預貯金
- 有価証券(株式、投資信託)
- 生命保険金(受取人固有の財産として原則除外、例外あり)
生前贈与:
- 相続開始前10年以内の生前贈与(2019年改正で期間が明確化)
- 遺留分権利者に対する特別受益(婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与)は、10年より前のものも含む
債務:
- 借入金
- 未払いの医療費・税金
ステップ2:遺留分の割合を適用
遺留分算定基礎財産に、遺留分の割合(2分の1または3分の1)を乗じます。
遺留分の総額 = 遺留分算定基礎財産 × 遺留分の割合
ステップ3:個別の遺留分額を計算
遺留分の総額を、各相続人の法定相続分に応じて配分します。
個別の遺留分額 = 遺留分の総額 × 法定相続分の割合
ステップ4:実際に受け取った財産を差し引く
個別の遺留分額から、実際に受け取った財産(遺贈、贈与、相続)を差し引きます。
遺留分侵害額 = 個別の遺留分額 - 実際に受け取った財産
この金額がプラスであれば、遺留分侵害額請求ができます。
不動産評価額の算定方法
遺留分額の計算で最も重要なのが、不動産の評価額です。不動産は相続財産の中で最も高額になることが多く、評価額によって遺留分額が大きく変わります。
評価方法の選択肢:路線価 vs 固定資産税評価額 vs 時価
不動産の評価方法には、主に3つの選択肢があります。
路線価(相続税評価額)
国税庁が毎年公表する、道路ごとの土地の評価額です。相続税の申告に使われます。
- メリット:公的な基準で客観性がある、相続税評価と整合性が取れる
- デメリット:時価の80%程度で低めに評価される、建物は固定資産税評価額を使う
- 適用場面:相続税申告と同じ基準で評価したい場合
固定資産税評価額
市町村が決定する、固定資産税の課税基準となる評価額です。
- メリット:公的な基準で入手が容易、低めの評価額で合意しやすい
- デメリット:時価の70%程度で低めに評価される、3年ごとの見直しで実勢価格との乖離が生じることがある
- 適用場面:当事者間で低めの評価額で合意できる場合
時価(市場価格)
実際に売却できる価格です。不動産鑑定士による鑑定評価や、近隣の取引事例を参考にします。
- メリット:実際の市場価格を反映、最も正確
- デメリット:評価に費用がかかる、当事者間で評価額に争いが生じやすい
- 適用場面:評価額に争いがある場合、高額な不動産の場合
法律上の取り扱い
民法には「遺留分算定に使う不動産評価額」の明確な規定はありません。裁判例では、時価(市場価格)を基準とするケースが多いですが、当事者間で合意できれば、路線価や固定資産税評価額を使うことも可能です。
ただし、請求する側は高めの評価額(時価)を主張し、請求される側は低めの評価額(路線価や固定資産税評価額)を主張することが多く、評価額が争点になりやすいのが実情です。
不動産鑑定士による評価が必要なケース
以下のような場合は、不動産鑑定士による評価を依頼することをおすすめします。
- 評価額に大きな争いがある場合:路線価と時価に大きな差がある、当事者間で評価額の合意ができない
- 特殊な不動産の場合:借地権、底地、区分所有マンション、店舗・事務所ビル、農地
- 高額な不動産の場合:評価額の差が遺留分額に大きく影響する
- 訴訟になる可能性がある場合:裁判所が不動産鑑定士の評価を重視する
不動産鑑定士の評価は、公的資格者による客観的な評価として、裁判所でも証拠として採用されます。評価額に争いがある場合は、早めに不動産鑑定士に相談することで、トラブルの長期化を防げます。
詳しい不動産の評価方法については、不動産の相続税評価額:路線価方式と倍率方式の計算方法で解説していますので、併せてご覧ください。
特別受益・寄与分の扱い
遺留分の計算では、特別受益と寄与分も考慮する必要があります。
特別受益とは
相続人が被相続人から受けた、特別な利益のことです。生前贈与や遺贈がこれにあたります。
特別受益の例:
- 結婚・養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与(住宅購入資金、事業資金)
- 大学の学費(他の兄弟と比べて特別に高額な場合)
特別受益は、遺留分算定基礎財産に持ち戻されます。つまり、生前贈与を受けた相続人は、その分を差し引いて遺留分を計算します。
注意点:
- 相続開始前10年以内の生前贈与が原則(2019年改正)
- 遺留分権利者への特別受益は、10年より前のものも含む
- 被相続人が「持ち戻し免除の意思表示」をしていれば、特別受益として扱わない
寄与分とは
相続人が被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、その貢献度に応じて相続分を増やす制度です。
寄与分の例:
- 被相続人の介護を長年無償で行った
- 被相続人の事業を無償で手伝い、財産を増やした
- 被相続人の療養看護に特別の貢献をした
重要な注意点:
寄与分は、遺産分割の際に考慮されますが、遺留分算定基礎財産には含まれません。つまり、寄与分があっても、遺留分の計算には直接影響しません。
ただし、相続人以外の親族(例:長男の妻)が介護などで特別の寄与をした場合、「特別寄与料」を請求できる制度が2019年改正で新設されました。
具体的な計算例
実際の計算例を見てみましょう。
ケース1:配偶者と子2人、遺言で長男のみに全財産を相続
前提条件:
- 相続人:配偶者、長男、次男
- 相続財産:自宅(評価額3,000万円)、預貯金1,000万円
- 遺言書:長男に全財産を相続させる
- 債務:なし
- 生前贈与:なし
ステップ1:遺留分算定基礎財産
3,000万円(自宅)+ 1,000万円(預貯金)= 4,000万円
ステップ2:遺留分の総額
4,000万円 × 1/2 = 2,000万円
ステップ3:個別の遺留分額
- 配偶者の遺留分:2,000万円 × 1/2(法定相続分)= 1,000万円
- 次男の遺留分:2,000万円 × 1/4(法定相続分)= 500万円
ステップ4:遺留分侵害額
配偶者と次男は実際には何も受け取っていないため、遺留分額がそのまま遺留分侵害額になります。
- 配偶者が長男に請求できる金額:1,000万円
- 次男が長男に請求できる金額:500万円
長男は、合計1,500万円を支払う必要があります。
ケース2:生前贈与(長男に1,000万円)がある場合
前提条件:
- ケース1と同じ
- 追加:5年前に長男に1,000万円の生前贈与(住宅購入資金)
ステップ1:遺留分算定基礎財産
3,000万円(自宅)+ 1,000万円(預貯金)+ 1,000万円(生前贈与)= 5,000万円
ステップ2:遺留分の総額
5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
ステップ3:個別の遺留分額
- 配偶者の遺留分:2,500万円 × 1/2 = 1,250万円
- 次男の遺留分:2,500万円 × 1/4 = 625万円
ステップ4:遺留分侵害額
長男は、遺言で4,000万円の財産を受け取り、さらに生前贈与で1,000万円を受け取っています(合計5,000万円)。
- 配偶者が長男に請求できる金額:1,250万円
- 次男が長男に請求できる金額:625万円
長男は、合計1,875万円を支払う必要があります。
このように、生前贈与があると遺留分額が増えるため、トラブルになりやすいのです。生前贈与と相続対策については、【2025年最新】生前贈与と相続対策の基本で詳しく解説しています。
遺留分侵害額請求の手続き:請求する側・される側の対応
請求する側のステップ
遺留分侵害額請求をする場合、以下の手順で進めます。
ステップ1:相続財産の調査
まず、相続財産の全体像を把握します。
調査項目:
- 不動産:登記簿謄本、固定資産税評価証明書で確認
- 預貯金:通帳、残高証明書
- 有価証券:証券会社の残高報告書
- 生前贈与:他の相続人への贈与の有無と金額
相続財産の調査方法は、相続財産の調査方法:銀行・証券・不動産の確認手順で詳しく解説しています。
ステップ2:遺留分額の計算
前述の計算方法に従って、遺留分額を算出します。不動産評価額が争点になりそうな場合は、不動産鑑定士に評価を依頼することを検討します。
ステップ3:請求書の作成と送付
遺留分侵害額請求書を作成し、内容証明郵便で送付します。
請求書に記載する内容:
- 請求者の氏名・住所
- 請求の相手方(相続人、受遺者)
- 被相続人の氏名・死亡日
- 遺留分侵害額請求の意思表示
- 請求額とその計算根拠
- 支払期限(通常は1か月程度)
- 支払方法(振込先)
内容証明郵便を使う理由:
- 請求した証拠が残る
- 時効の中断(消滅時効の進行を止める)効果がある
ステップ4:交渉・調停・訴訟
請求書を送付後、相手方と交渉します。
交渉:
当事者間で話し合い、支払額・支払方法(一括 or 分割)を決めます。合意できれば、合意書を作成します。
調停:
交渉で合意できない場合、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停委員が間に入り、話し合いで解決を目指します。
訴訟:
調停でも合意できない場合、地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起します。裁判所が判決で遺留分侵害額を決定します。
請求された側のステップ
遺留分侵害額請求を受けた場合の対応を見ていきます。
ステップ1:請求内容の確認
請求書を受け取ったら、まず請求内容を確認します。
確認項目:
- 請求額の計算根拠は正しいか
- 不動産の評価額は妥当か
- 生前贈与の有無と金額は正確か
- 特別受益の扱いは適切か
ステップ2:不動産評価額の検証
請求額の大部分を占めるのが不動産評価額です。請求者が時価(高額)を主張している場合、以下を検討します。
検証方法:
- 路線価や固定資産税評価額と比較
- 近隣の取引事例を調査
- 不動産鑑定士に評価を依頼
評価額に争いがある場合は、早めに不動産鑑定士に相談することをおすすめします。
ステップ3:弁護士への相談
遺留分侵害額請求は法律問題であり、計算も複雑です。請求を受けたら、速やかに弁護士に相談しましょう。
弁護士への相談タイミング:
- 請求書を受け取ったらすぐ
- 請求額が高額で支払えない場合
- 不動産評価額に争いがある場合
- 交渉が難航した場合
ステップ4:支払額の交渉
請求額が妥当であれば、支払額と支払方法を交渉します。
交渉のポイント:
- 不動産評価額の見直し(路線価や固定資産税評価額での合意)
- 分割払いの相談(一括払いが難しい場合)
- 利息の扱い(法定利率年3%)
支払いの工夫:
- 不動産の売却で資金を調達
- 生命保険金で支払う
- 金融機関からの借入
一括払いが難しい場合は、分割払いを提案します。ただし、分割払いには相手の同意が必要です。
ステップ5:合意・調停・訴訟
交渉で合意できれば、合意書を作成して終了です。合意できない場合は、調停や訴訟に移行します。
必要書類・期限
必要書類
遺留分侵害額請求には、以下の書類が必要です。
基本書類:
- 遺言書(公正証書遺言または検認済みの自筆証書遺言)
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
不動産関連:
- 不動産登記簿謄本(全部事項証明書)
- 固定資産税評価証明書
- 不動産鑑定評価書(必要に応じて)
金融資産関連:
- 預貯金の残高証明書
- 有価証券の残高報告書
生前贈与関連:
- 贈与契約書
- 預貯金の履歴(振込記録)
期限
遺留分侵害額請求には厳格な期限があります。
短期消滅時効:1年
相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年以内に請求しなければ、時効により請求権が消滅します。
「知った時」とは:
- 被相続人の死亡を知った時
- かつ、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時
両方を知った時から1年です。例えば、父が亡くなったことは知っていても、遺言書の存在を知らなければ、遺言書の内容を知った時から1年です。
長期除斥期間:10年
相続開始から10年を経過すると、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知らなくても、請求権が消滅します。
時効の中断:
内容証明郵便で請求書を送付すると、6か月間は時効の完成が猶予されます。その間に、裁判上の請求(調停、訴訟)を行えば、時効が中断します。
遺留分侵害額請求は期限が短いため、遺言書の内容を知ったら、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分トラブルの実例:不動産評価で揉めたケース
実際のトラブル事例を見ていきましょう。
ケース1:不動産評価額で揉めた実例
状況
父が死亡し、遺言書で長男が自宅(土地・建物)を相続、次男は何も相続しないという内容でした。相続人は配偶者(すでに死亡)、長男、次男の2人です。
自宅の評価額について、長男は路線価(2,000万円)を主張し、次男は時価(3,000万円)を主張しました。
トラブルの経緯
次男が遺留分侵害額請求を行い、自宅の評価額を3,000万円として、遺留分侵害額750万円(3,000万円 × 1/2 × 1/2)を請求しました。
長男は、路線価2,000万円で計算すべきと主張し、遺留分侵害額は500万円(2,000万円 × 1/2 × 1/2)だと反論しました。
両者の主張に250万円の差が生じ、交渉が難航しました。
解決方法
弁護士の勧めで、不動産鑑定士による評価を依頼しました。鑑定評価額は2,500万円となり、両者がこれを受け入れました。
次男の遺留分侵害額は625万円(2,500万円 × 1/2 × 1/2)となり、長男が次男に625万円を支払うことで合意しました。
教訓
不動産評価額は、遺留分額に直接影響します。評価額に争いがある場合は、不動産鑑定士による客観的な評価が有効です。鑑定費用(この事例では30万円)はかかりますが、長期化する交渉コストや訴訟費用を考えると、早期解決につながります。
ケース2:生前贈与が問題になった実例
状況
父が死亡し、相続人は長男と次男の2人です。遺言書で、自宅(評価額2,000万円)を長男に相続させるという内容でした。
次男は、父が5年前に長男に住宅購入資金1,000万円を生前贈与していたことを知り、これを遺留分算定基礎財産に含めるよう主張しました。
トラブルの経緯
長男は、「生前贈与は父の自由意思であり、遺留分算定に含めるべきではない」と反論しました。
次男は、「生前贈与は相続開始前10年以内で、特別受益に該当する」と主張し、遺留分算定基礎財産を3,000万円(自宅2,000万円 + 生前贈与1,000万円)として計算すべきだと請求しました。
解決方法
弁護士が民法の条文を確認し、2019年改正により、相続開始前10年以内の生前贈与は遺留分算定基礎財産に含まれることを説明しました。
長男もこれを受け入れ、遺留分算定基礎財産を3,000万円として再計算しました。次男の遺留分侵害額は750万円(3,000万円 × 1/2 × 1/2)となり、長男が次男に750万円を支払うことで合意しました。
教訓
生前贈与は遺留分算定基礎財産に含まれます。トラブルを防ぐには、生前贈与を行う際に、他の相続人への配慮や、遺留分放棄の手続きを検討することが重要です。
また、生前贈与を受けた相続人は、将来的に遺留分侵害額請求を受ける可能性があることを認識し、資金を準備しておく必要があります。
ケース3:事業承継で遺留分が障壁になった実例
状況
父が会社を経営しており、事業用不動産(評価額5,000万円)と自社株式(評価額3,000万円)を長男に承継させる遺言書を残しました。相続人は長男、次男、三男の3人です。
次男と三男が遺留分侵害額請求を行い、それぞれ遺留分侵害額1,333万円(8,000万円 × 1/2 × 1/3)を請求しました。長男は合計2,666万円を支払う必要が生じました。
トラブルの経緯
長男は会社経営に専念しており、手元に現金がありませんでした。遺留分を支払うために事業用不動産を売却すれば、会社の事業継続に支障が出ます。
次男と三男は、「遺留分は法律で保障された権利だから、支払ってほしい」と主張し、交渉が難航しました。
解決方法
父が生前に加入していた生命保険(死亡保険金3,000万円、受取人は長男)が支払われ、長男はこの保険金で遺留分を支払いました。
残りの666万円は、長男が分割払いで支払うことで次男・三男が同意し、合意書を作成しました。
教訓
事業承継では、遺留分対策が必須です。生命保険金は遺留分算定基礎財産に原則として含まれないため、遺留分の支払い資金として活用できます(ただし、保険金が著しく高額な場合は例外的に遺留分算定基礎財産に含まれることがあります)。
また、生前に遺留分放棄の手続きを行うことで、事業承継をスムーズに進めることができます。
トラブルを防ぐ生前対策:遺留分を考慮した相続計画
遺留分トラブルを防ぐには、生前対策が重要です。
遺言書の書き方(遺留分を考慮)
遺言書を作成する際は、遺留分を考慮することが大切です。
遺留分を侵害しない遺言書
最もトラブルが少ないのは、遺留分を侵害しない遺言書です。
具体例:
- 相続人:配偶者、長男、次男
- 相続財産:自宅3,000万円、預貯金1,000万円
- 遺留分:配偶者1,000万円、長男500万円、次男500万円
遺留分を侵害しない遺言書の例:
第1条 自宅は長男に相続させる。 第2条 預貯金1,000万円のうち、500万円は配偶者に、500万円は次男に相続させる。
この場合、配偶者は500万円(遺留分1,000万円には届かない)、長男は3,000万円、次男は500万円を相続します。配偶者の遺留分は侵害されていますが、長男と次男に請求することになり、家族間で調整が可能です。
遺留分を侵害する場合の付言事項
遺留分を侵害する遺言書を作成する場合は、付言事項で理由を説明することが重要です。
付言事項の例:
長男には、私の事業を承継してもらいたいため、事業用不動産と自社株式を相続させます。次男と三男には申し訳ありませんが、事業の継続のために理解してください。 なお、次男と三男には、生前に住宅購入資金として各1,000万円を贈与しています。
付言事項に法的拘束力はありませんが、被相続人の意思を伝えることで、相続人の納得を得やすくなります。
公正証書遺言の作成をおすすめする理由
遺言書は、公正証書遺言で作成することをおすすめします。
公正証書遺言のメリット:
- 公証人が作成するため、形式的な不備がない
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんのリスクがない
- 検認手続きが不要で、すぐに相続手続きができる
遺言書の書き方については、遺言書の書き方完全ガイド:自筆vs公正証書【ひな形付】で詳しく解説しています。
遺留分放棄の手続き
遺留分放棄は、遺留分を事前に放棄する手続きです。
生前の遺留分放棄
相続開始前に、相続人が遺留分を放棄することができます。ただし、家庭裁判所の許可が必要です。
手続きの流れ:
- 遺留分を放棄する相続人が、家庭裁判所に遺留分放棄の許可申立てを行う
- 家庭裁判所が、本人の意思確認と放棄の理由を審査する
- 許可が下りれば、遺留分放棄が確定する
家庭裁判所が許可する条件:
- 本人の自由意思による放棄であること(強制されていないこと)
- 放棄の理由が合理的であること(代償措置がある、事業承継のため、など)
代償措置の例:
- 生前贈与で相応の財産をすでに受け取っている
- 生命保険金の受取人に指定されている
- 他の相続人が事業承継する代わりに遺留分を放棄する
相続開始後の遺留分放棄
相続開始後は、自由に遺留分を放棄できます。家庭裁判所の許可は不要です。
ただし、一度請求した後に放棄することはできません。請求前に放棄するか、請求後に和解で減額するかのどちらかです。
遺留分放棄のメリット・デメリット
メリット:
- 事業承継がスムーズに進む
- 相続人間のトラブルを予防できる
- 代償措置(生前贈与など)を受け取れる
デメリット:
- 将来的に遺留分を請求できなくなる
- 他の相続人との公平性に問題が生じる可能性がある
生前贈与の活用
生前贈与は、遺留分対策として活用できますが、注意が必要です。
遺留分算定の基礎財産に含まれる生前贈与
2019年改正により、相続開始前10年以内の生前贈与は遺留分算定基礎財産に含まれることが明確化されました。
注意点:
- 10年以内の生前贈与は、遺留分算定に影響する
- 遺留分権利者への特別受益は、10年より前のものも含む
遺留分を考慮した生前贈与の方法
生前贈与を行う際は、以下の点に注意します。
全員に公平に贈与する:
各相続人に同額の生前贈与を行えば、遺留分トラブルを防げます。
特別受益の持ち戻し免除の意思表示:
被相続人が「この生前贈与は遺留分算定基礎財産に含めない」という意思表示をすれば、遺留分算定から除外できます(ただし、2019年改正により、相続開始前10年以内の生前贈与はこの意思表示があっても遺留分算定に含まれます)。
生命保険の活用
生命保険金は、遺留分対策として非常に有効です。
生命保険金は遺留分算定の基礎財産に含まれない(原則)
生命保険金は、受取人固有の財産であり、相続財産ではありません。そのため、原則として遺留分算定基礎財産に含まれません。
例外:
保険金が著しく高額で、他の相続人との間に著しい不公平が生じる場合は、例外的に遺留分算定基礎財産に含まれることがあります(最高裁判例)。
生命保険金で遺留分を支払う
遺留分侵害額請求を受けた相続人が、生命保険金で支払うことができます。
具体例:
- 父が長男を受取人とする生命保険(死亡保険金3,000万円)に加入
- 遺言書で、事業用不動産5,000万円を長男に相続させる
- 次男・三男が遺留分侵害額請求(各1,250万円、合計2,500万円)
- 長男は生命保険金3,000万円で遺留分を支払う
生命保険金の受取人指定のポイント
生命保険金の受取人は、遺留分を支払う可能性がある相続人に指定します。
例:
- 事業承継する長男を受取人に指定
- 不動産を相続する長男を受取人に指定
生命保険金は、相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)があるため、相続税対策としても有効です。
家族間コミュニケーションのポイント
遺留分トラブルを防ぐ最も重要な対策は、家族間のコミュニケーションです。
生前に相続方針を家族に説明する
被相続人が生前に、相続方針を家族に説明することが大切です。
説明する内容:
- 誰に何を相続させるか
- その理由(事業承継、介護の負担、など)
- 他の相続人への配慮(生前贈与、生命保険金、など)
遺留分を侵害する理由を明確にする
遺留分を侵害する場合は、その理由を明確に説明します。
理由の例:
- 事業承継のため、長男に事業用資産を集中させる
- 介護の負担が大きかった長女に、自宅を相続させる
- すでに次男には住宅購入資金を贈与している
家族の納得を得ることでトラブルを予防
相続人全員が納得していれば、遺留分侵害額請求は行われません。生前に家族で話し合い、納得を得ることが、トラブル予防の最善策です。
相続トラブル全般については、相続トラブルの実例と予防策:弁護士が教える対処法でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
専門家の選び方:弁護士・不動産鑑定士との連携
遺留分侵害額請求は専門的な知識が必要なため、専門家に相談することをおすすめします。
弁護士への相談タイミング
以下のような場合は、弁護士に相談しましょう。
遺留分侵害額請求を受けた場合
請求書を受け取ったら、すぐに弁護士に相談します。請求額が妥当かどうかを確認し、対応方針を決めます。
遺留分侵害額請求をする場合
請求する側も、弁護士に相談することをおすすめします。請求額の計算が複雑で、交渉も法律知識が必要だからです。
交渉が難航した場合
当事者間の交渉が難航した場合は、弁護士に交渉を依頼します。弁護士が間に入ることで、冷静な話し合いができます。
弁護士費用の目安
弁護士費用は、事務所によって異なりますが、一般的には以下の通りです。
着手金:
20万円〜30万円(請求額や事案の複雑さによる)
成功報酬:
請求額(または減額した金額)の10〜20%
例:
- 遺留分侵害額500万円を請求する場合
- 着手金:20万円
- 成功報酬:500万円 × 15% = 75万円
- 合計:95万円
弁護士費用は高額に感じられますが、適正な金額で解決できることや、訴訟リスクを回避できることを考えると、費用対効果は高いといえます。
不動産鑑定士の役割
不動産評価額が遺留分額に与える影響は大きく、不動産鑑定士の役割は重要です。
不動産評価額が遺留分額に与える影響
前述の通り、不動産評価額の違いで遺留分額が大きく変わります。
例:
- 路線価2,000万円 → 遺留分500万円
- 時価3,000万円 → 遺留分750万円
- 差額:250万円
この250万円の差は、当事者にとって大きな金額です。
路線価・固定資産税評価額・時価の違い
不動産鑑定士は、3つの評価方法の違いを説明し、適切な評価方法を提案します。
また、不動産鑑定士による評価は、裁判所でも証拠として採用されるため、客観性が高いです。
不動産鑑定士による評価が必要なケース
以下のような場合は、不動産鑑定士による評価を検討します。
- 評価額に大きな争いがある場合
- 特殊な不動産の場合(借地権、底地、区分所有マンション、店舗・事務所ビル、農地)
- 高額な不動産の場合
- 訴訟になる可能性がある場合
不動産鑑定士の報酬の目安
不動産鑑定士の報酬は、物件の規模や複雑さによって異なります。
一般的な住宅の場合:
20万円〜30万円
商業ビル・大規模物件の場合:
50万円〜100万円以上
鑑定費用は高額に感じられますが、評価額の争いで250万円以上の差が生じることを考えると、費用対効果は高いといえます。
税理士との連携
相続税申告と遺留分の関係を理解するため、税理士との連携も重要です。
相続税申告と遺留分の関係
遺留分侵害額を支払った相続人は、相続税の再計算ができます。
具体例:
- 長男が5,000万円の財産を相続し、相続税500万円を納付
- その後、次男に遺留分侵害額1,000万円を支払った
- 長男の実際の相続財産は4,000万円になるため、相続税を再計算し、還付を受けられる
遺留分の支払いが相続税に与える影響
遺留分侵害額を受け取った相続人は、相続税の修正申告が必要です。
具体例:
- 次男が当初0円の相続財産で相続税0円
- 遺留分侵害額1,000万円を受け取った
- 次男は相続財産1,000万円として、相続税を修正申告する
税理士への相談タイミング
遺留分侵害額の授受が決まったら、税理士に相談し、相続税の再計算や修正申告を依頼します。
費用の目安
専門家費用の総額は、事案の複雑さによって異なりますが、以下が目安です。
弁護士費用:
- 着手金:20万円〜30万円
- 成功報酬:請求額の10〜20%
不動産鑑定士費用:
- 一般住宅:20万円〜30万円
- 商業ビル:50万円〜100万円
税理士費用:
- 相続税の再計算・修正申告:10万円〜20万円(相続税申告報酬に含まれる場合もある)
合計:
50万円〜150万円程度
専門家費用は高額に感じられますが、適正な遺留分額で解決でき、長期化する交渉や訴訟を避けられることを考えると、費用対効果は高いといえます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺留分侵害額請求の期限はいつまでですか?
相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内です。
「知った時」とは、被相続人の死亡を知り、かつ遺留分を侵害する遺言書や贈与があったことを知った時を指します。期限を過ぎると請求できなくなるため、遺言書の内容を知ったら速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
Q2. 遺留分の計算で使う不動産評価額は、路線価と時価のどちらですか?
法律上は明確な規定がありませんが、裁判例では時価(市場価格)を基準とするケースが多いです。
ただし、当事者間で合意できれば、路線価や固定資産税評価額を使うことも可能です。評価額に争いがある場合は、不動産鑑定士による評価を依頼することをおすすめします。不動産鑑定士の評価は、裁判所でも証拠として採用されるため、客観性が高く、トラブルの早期解決につながります。
Q3. 遺留分侵害額請求を受けたが、支払えない場合はどうすればいいですか?
以下の方法を検討してください。
分割払いの交渉:
一括払いが難しい場合は、分割払いを提案します。ただし、相手の同意が必要です。
不動産の売却:
相続した不動産を売却し、売却代金で支払います。
生命保険金の活用:
被相続人が加入していた生命保険金で支払います。
金融機関からの借入:
銀行や信用金庫から借り入れて支払います。
どうしても支払えない場合は、弁護士に相談し、現実的な支払い計画を立てることが重要です。
Q4. 生前に遺留分を放棄させることはできますか?
可能です。生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所は、本人の自由意思による放棄であること、放棄の理由が合理的であることを審査します。代償措置(生前贈与で相応の財産を受け取っている、生命保険金の受取人に指定されている、など)がある場合は、許可されやすくなります。
ただし、強制的に放棄させることはできません。本人の自由意思が前提です。
Q5. 生前贈与は遺留分算定に含まれますか?
相続開始前10年以内の生前贈与は、遺留分算定基礎財産に含まれます。
2019年の民法改正により、生前贈与の算入期間が明確化されました。10年より前の生前贈与は原則として含まれませんが、遺留分権利者への特別受益は、10年より前のものも含まれる場合があります。
生前贈与を行う際は、将来的に遺留分トラブルになる可能性を考慮し、他の相続人への配慮や遺留分放棄の手続きを検討することをおすすめします。
Q6. 遺留分侵害額請求をされた場合、不動産を手放さなければなりませんか?
いいえ、不動産を手放す必要はありません。
2019年の民法改正により、遺留分侵害額請求は金銭請求になったため、金銭で支払えば不動産を保有し続けることができます。
これが改正の大きなメリットで、従来の制度(遺留分減殺請求)では不動産が共有化されてしまう問題がありました。現在は、金銭を支払えば不動産の単独所有を維持できます。
Q7. 遺留分を侵害する遺言書は無効ですか?
いいえ、遺留分を侵害する遺言書も有効です。
遺言書の内容は被相続人の自由意思で決められます。ただし、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺言書が無効になるのは、形式的な不備がある場合(日付がない、署名がない、など)や、遺言能力がない場合(認知症で判断能力がなかった、など)です。遺留分を侵害していることは、無効事由にはなりません。
Q8. 兄弟姉妹に遺留分はありますか?
いいえ、兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分を持つのは、配偶者、子(直系卑属)、親(直系尊属)のみです。
例えば、子がいない夫婦で配偶者が亡くなり、遺言で「全財産を友人に遺贈する」と書かれていても、兄弟姉妹は遺留分を請求できません。一方、親が存命であれば、親は遺留分を請求できます。
Q9. 遺留分の計算で介護負担(寄与分)は考慮されますか?
寄与分は、遺産分割の際に考慮されますが、遺留分算定基礎財産には含まれません。
例えば、長女が親の介護を長年無償で行った場合、遺産分割では寄与分として相続分が増えますが、遺留分の計算では寄与分は差し引かれません。
ただし、相続人以外の親族(長男の妻など)が介護などで特別の寄与をした場合は、「特別寄与料」を請求できる制度が2019年改正で新設されました。
Q10. 遺留分侵害額請求は弁護士に依頼しないとできませんか?
法律上は本人でもできますが、弁護士に依頼することを強くおすすめします。
理由は以下の通りです:
- 遺留分額の計算が複雑(不動産評価、生前贈与、特別受益の扱いなど)
- 法律知識が必要(民法の条文、判例の理解)
- 交渉が難しい(感情的になりやすく、冷静な話し合いが困難)
- 内容証明郵便の作成が必要
- 時効の管理が重要
特に不動産評価額に争いがある場合は、弁護士と不動産鑑定士の連携が必要です。専門家費用はかかりますが、適正な金額で早期解決できることを考えると、費用対効果は高いといえます。
Q11. 遺留分侵害額請求をすると、家族関係が悪化しませんか?
確かに、遺留分侵害額請求は家族関係に影響を与える可能性があります。
しかし、遺留分は法律で保障された権利であり、請求すること自体は正当な行為です。問題は、請求の仕方や交渉のプロセスにあります。
家族関係を悪化させないためのポイント:
- 感情的にならず、冷静に話し合う
- 弁護士を介して交渉する(第三者が入ることで感情的な対立を避けられる)
- 相手の事情を理解する(支払いが難しい場合は分割払いを提案するなど)
- 合意書を作成し、将来の紛争を防ぐ
また、生前から家族で話し合い、納得を得ておくことが、最も重要な予防策です。
Q12. 遺留分侵害額請求と相続放棄は併用できますか?
いいえ、併用できません。
相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになるため、遺留分を請求する権利もなくなります。
逆に、遺留分侵害額請求をすると、相続を承認したことになり、その後に相続放棄はできません。
相続財産よりも債務が多い場合は、相続放棄を検討します。相続放棄については、相続放棄の期限と手続き:3か月以内にすべきことで詳しく解説しています。
Q13. 遺留分侵害額に利息は付きますか?
はい、法定利率(年3%)の利息が付きます。
利息の起算点は、「遺留分侵害額請求をした時」です。内容証明郵便で請求書を送付した日から、年3%の利息が発生します。
例えば、遺留分侵害額500万円を請求し、1年後に支払われた場合、利息は15万円(500万円 × 3%)となり、合計515万円を受け取れます。
Q14. 遺留分侵害額請求は、どこの裁判所に申し立てますか?
調停の場合:
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意した家庭裁判所に申し立てます。
訴訟の場合:
相手方の住所地を管轄する地方裁判所に提起します。
まずは内容証明郵便で請求し、交渉で解決できない場合に調停や訴訟に移行するのが一般的な流れです。
Q15. 遺留分侵害額請求をした後、和解で減額することはできますか?
はい、できます。
遺留分侵害額請求をした後でも、当事者間で話し合い、和解で減額することは可能です。
和解のメリット:
- 訴訟費用や時間を節約できる
- 家族関係の悪化を最小限に抑えられる
- 分割払いなど柔軟な支払い方法を合意できる
弁護士が間に入ることで、冷静な話し合いができ、和解の可能性が高まります。
まとめ
遺留分侵害額請求は、法定相続分を下回る財産しか受け取れなかった相続人が、金銭での補償を求める制度です。2019年の民法改正により、現物返還から金銭請求に変わり、不動産の共有化を避けられるようになりました。
トラブルを防ぐには、以下のポイントが重要です:
- 生前に遺留分を考慮した遺言書を作成する:遺留分を侵害しない内容にするか、侵害する場合は理由を明確にし、付言事項で説明する
- 不動産評価額を適正に算定する:不動産評価額は遺留分額に直接影響するため、路線価・時価のどれを使うか事前に確認し、争いがある場合は不動産鑑定士に評価を依頼する
- 生前対策を行う:遺留分放棄の手続き、生前贈与、生命保険の活用などでトラブルを予防する
- 家族間のコミュニケーションを大切にする:生前に相続方針を説明し、家族の納得を得ることで、円満な相続を実現する
- 専門家に相談する:請求された場合も、請求する場合も、弁護士と不動産鑑定士に相談し、適正な金額で早期解決を目指す
遺留分侵害額請求は、相続人間の公平を保つための重要な制度ですが、トラブルになることも多いです。生前から準備し、専門家の助けを借りることで、円満な相続を実現しましょう。
また、実家の相続でトラブルになりやすい事例については、実家の処分で兄弟が揉める原因と対策:不動産鑑定士が解説でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
専門家への相談をおすすめするケース
以下のような場合は、弁護士・税理士・不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします:
- 遺留分侵害額請求を受けた場合
- 遺留分侵害額請求をする場合
- 不動産の評価額に争いがある場合
- 生前贈与や特別受益の扱いに疑義がある場合
- 遺留分を考慮した遺言書を作成したい場合
- 事業承継で遺留分が障壁になる可能性がある場合
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談・税務相談ではありません。相続に関する具体的な判断や手続きについては、弁護士・税理士・司法書士などの専門家にご相談ください。
また、法改正により内容が変更される可能性があります。最新の情報は法務省・国税庁などの公式サイトでご確認ください。

北原 崇寛
不動産鑑定士・宅地建物取引士
大手不動産鑑定会社で裁判鑑定・証券化案件・担保評価等を担当後、東証一部上場不動産会社にて不動産訴訟アドバイザリー、法律・税制面からの不動産有効活用コンサルティングに従事。2020年北原不動産鑑定士事務所開業。


